(2)糖尿病の検査とコントロールの指標

 糖尿病は、『慢性の高血糖』を特徴とする病気ですが、高血糖があっても、何も自覚症状がない場合が少なくありません。
 血糖が極端に高くなると、のどがかわき、多飲、多尿、体がだるい、疲れやすいなどの高血糖による症状が出てきます。また、合併症が進行すると、手足のしびれ(神経障害)、視力低下(網膜症)、むくみ、高血圧、食欲低下(腎症)などの症状が出てきます。しかし、注意しなければいけないのは、これらの症状は糖尿病がよほど悪くならないと出てこないということです。言い換えれば、なにも症状がないからといって、糖尿病は悪くない、合併症はないとはとても言えないということです。実際、合併症がかなり進行してしまってから病院を受診される人が後をたちません。
 糖尿病は、検査をしなければコントロールが良いのか悪いのか、合併症がないのかあるのか、合併症が進行しているのかいないのかが分からない病気なのです。ですから、治療を中断せず、検査を定期的に受けて、自分の糖尿病が、どのような状態にあるのかを常にチェックし、早めに対処する必要があります。
 糖尿病は、体全体の病気ですから、検査も血糖関係の検査だけでなく、色々検査が必要です。


糖尿病に必要な検査一覧

1)胸部レントゲン写真
2)心電図
3)足のレントゲン写真
4)足の血流検査
5)呼吸機能検査
6)CTスキャン(脳、腹部)
7)超音波検査(心臓、腹部、甲状腺など)
8)体重
9)尿検査
10)血液検査
11)神経伝導速度
12)眼底検査

1)胸部レントゲン写真

 心臓肥大の有無、動脈硬化の進行の程度、肺の病気の有無などを調べます。


2)心電図

 動脈硬化による心臓の病気(狭心症、心筋梗塞など)の有無、不整脈の有無などを調べます。

3)足のレントゲン写真

 正常では血管はレントゲン写真では写りませんが、動脈硬化が進行すると、血管の壁にカルシウムがたまってくるため、レントゲンに写るようになります。


4)足の血流検査(ドップラー血流検査)

 動脈硬化が進行すると、足の血液の流れが悪くなり、歩くと足がいたくなったりします。足先まで血液が正常に流れているかどうかを調べます。


5)呼吸機能検査

 動脈硬化などで、心臓の働きが悪くなると、肺機能も低下してきます。肺活量、肺から空気を押し出す力などを調べます。


6)CTスキャン

【脳CTスキャン】
糖尿病が長い間あると、何も症状がなくても脳に小さな血管のつまり(多発脳梗塞)が起こっていることがあります。脳CTスキャンにより、そのような変化がないか調べます。
【腹部CTスキャン】
肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓がみえるので悪性腫瘍がないかがわかります。糖尿病が急に悪くなった場合、体のどこかに悪性腫瘍のある可能性があります。また、肥満のある場合は、脂肪が、皮下にたまっているのか、お腹の中(内臓脂肪)にたまっているのかが分かります。


7)超音波検査

【心臓超音波検査】
実際に心臓が動いている状態が見えます。胸部レントゲン写真ではわからない心臓の壁の厚さ、弁の動き、弁膜症の有無、心筋梗塞(新旧)の有無などが分かります。
【腹部超音波検査】
CT検査とほぼ同じことが分かりますが、胆嚢、肝臓などは病気によっては超音波検査のほうが良く分かることがあります。
【甲状腺超音波検査】
甲状腺に異常があると糖尿病が悪化することがあります。甲状腺がはれていないか、腫瘍がないかなどを調べます。


8)体重

 自分の理想体重(統計的に病気が一番少ない体重は[身長(m)×身長(m)×22]で求めることができます。この理想体重より10%以上多い人は、医師の指示に従って減量をこころがけてください。肥満のある人の糖尿病は、減量により確実に改善します。また、糖尿病のコントロールが良くても肥満があると動脈硬化が進行します。減量により動脈硬化の進行をおさえることができます。

9)尿検査

(1)尿糖
 血糖が160〜180mg/dlを超えると尿に糖がでてきます。しかし、これには個人差があり、血糖が高くても尿糖が陰性の場合や逆に、血糖が低くても尿糖が陽性となる(腎性尿糖)場合があります。自己血糖測定が普及した現在では、以前ほど血糖コントロールのめやすとしては用いられなくなりました。

(2)尿ケトン体
 糖尿病が極端に悪い時は、血中のブドウ糖を利用できなくなるため、かわりに脂肪が分解され、その産物として尿にケトン体が出てきます。血液中にもケトン体がたまると、血液が酸性になりケトアシドーシスという重症の状態になります。

(3)尿蛋白
 尿蛋白は、膀胱炎、慢性腎炎などでも認められますが、糖尿病歴が長く、コントロールの悪い場合には糖尿病の合併症の一つである腎症の存在が疑われます。腎症の初期には、普通の検査で、蛋白が陰性でも、詳しく調べると極少量の蛋白尿(微量蛋白尿)がでてきます。この段階では血糖をよくすることで蛋白尿を減らすことができます。定期的なチェックが必要です。


10)血液検査

(a)血糖関連検査

 (1)血糖
 血糖とは血の中のブドウ糖濃度のことです。正常では、空腹時血糖は70〜110mg/dl位、食後でも140mg/dlは超えません。糖尿病の人の血糖値の目標は空腹時で120mg/dl以下、1日の一番高いところ(食後2時間)で180〜200mg/dl以下ですが、より正常に近いほうが良いことは言うまでもありません。

 (2)HbA 1c(ヘモグロビン・エ−・ワン・シー)
         (グリコヘモグロビン、糖化ヘモグロビン)
 血糖値が慢性に高いと、血液の赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白質にブドウ糖がゆっくり結合してゆきます。このブドウ糖が結合したヘモグロビンのことをヘモグロビン・エー・ワン・シーといいます。
 HbA 1cは約1ヶ月前から現在までの平均血糖を表しています。血糖は、食事の前後で、短時間の間に変化(上下)しますが、HbA 1cはゆっくり変化するため、食事の前後では変化しません。そのため、長い眼でみた糖尿病のコントロールの善し悪しは、HbA 1cをみるとよくわかります。HbA 1cが常に8%を越えていると、将来糖尿病合併症が出てくる可能性が非常に大きくなります。HbA 1cの正常値は6%以下です。糖尿病の人は、7%以下、できれば6.5%以下を目標にしましょう。HbA 1cが正常に近い程、糖尿病合併症が出にくいことがわかっています。

 (3)GA(グリコアルブミン、糖化アルブミン)
 血糖値が高いと、ブドウ糖は、ヘモグロビンだけでなく、血液中の蛋白質の一つであるアルブミンにも結合します。HbA 1cが約1ヶ月間の平均血糖が表すのに対し、グリコアルブミンは約2週間の平均血糖を表しています。糖尿病の人はこの値が20%以下を目標にします。

 (4)尿中1,5AG(1,5アンヒドログルシトール)
 この物質は,血糖が高い程,尿中の値が減少します。血糖が変動すると数日で1,5AG も変化するので、数日間の血糖コントロールの状態が分かります。

(b)血中インスリン、C-ペプチド
 膵臓からどれくらいインスリンが出ているのかが分かります。この検査の結果から、治療法として食事療法だけで良いのか、飲み薬、インスリンが必要なのかがある程度推測できます。

(c)抗GAD抗体
 自分の膵臓に対する抗体(自己抗体)の一つです。この抗体が陽性に出る人は、将来、膵臓からインスリンが出にくくなる可能性が大きいので、早めにインスリンを使用する必要があります。

(d)血中各種ホルモン
 糖尿病の中には、インスリン以外のホルモンの病気が原因で糖尿病になっている(二次性糖尿病)場合があります。この場合は、治療により糖尿病を完全に治すことができます。頻度は少ないのですが、この二次性糖尿病を除外するために、各種ホルモンの検査をします。

(e)血液生化学検査
 いわゆる一般血液検査です。貧血の有無、肝機能、腎機能、コレステロール、中性脂肪などを調べます。


11)神経伝導速度

 糖尿病のコントロールの良くない状態が5年以上続くと、体の隅々まで走っている末梢神経の働きが悪くなり、手足のしびれ、自律神経障害などが起こってきます。この検査は、神経に刺激をあたえて、実際に神経の中を刺激がどのくらいのスピードで伝わるかを調べるものです。正常では手の正中神経では刺激の伝わるスピードは54m/秒以上、足の腓骨神経42m/秒以上です。

12)眼底検査

 自分では、視力の低下もなく、何も異常がないと思っていても、眼底に糖尿病の合併症(網膜症)のある人がたくさんいます。視力低下や失明という最悪の事態をさけるため、定期的に眼底検査を受け、異常があったら、早めに対処することが大切です。
 治療を中断することなく、糖尿病と共にあゆみ、『一病長寿』をめざしましょう。