(1)糖尿病とはどんな病気でしょうか。
1.糖尿病はインスリンの作用の不足、それを最もよく表す
  のが血糖


 糖尿病は膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞から分泌されるインスリンというホルモンの作用が弱くなって、体内の代謝が乱れて起こる病気です。この乱れを最も敏感に表現するのが血糖(血液中のブドウ糖の濃度)です。健康者では血糖が正常になるように体内のインスリンの分泌が調節されていますが、糖尿病では分泌が悪くなったり、分泌されたインスリンが正常に作用しないために、血糖が高く(高血糖)なります。
 血糖の値は個人差がありますが平均すると、健康な人では早朝空腹の時には80mg/dl(0.08%)くらいで、食後2時間で100mg/dl(0.1%)くらいになります。軽い糖尿病では空腹時の血糖の上昇は軽度ですが、食後の血糖は著明に上昇します。血糖が180mg/dl(0.18%)くらいを超えると尿の中にブドウ糖が洩れ出し、尿糖が出てきます。軽い糖尿病では食後だけ尿糖が陽性で、重くなると空腹時の血糖の上昇も著明になりますので、一日中尿糖が陽性になります。しかし、尿に糖がでる血糖の濃度は個人差がありますので、確実な糖尿病の目印にはなりません。


2.重くならないと現れない自覚症状

 糖尿病による口渇、多尿、多食、やせ、からだのだるさなどの自覚症状はよく知られていますが、全ての糖尿病の人に自覚症状があるとは限りません。かなり血糖が高くならないと、自覚症状は現れませんし、あっても気のせいにしてしまっている方もあります。ときにはかなり重症でも症状がないことがあります。そのような方でも急に症状が出てきたり、急性の合併症(傷が治り難い、感染しやすい、妊娠の時の合併症)、長く続くと慢性合併症(網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化の促進)がでてきたりしますので、糖尿病の治療をしなければなりません。そのために血糖を測定して糖尿病を診断します。ある程度異常血糖が高いときには(早朝空腹時で126mg/dl、75gブドウ糖を飲んだ2時間後で200mg/dl)自覚症状がなくても、糖尿病と診断します。また、血糖ほどは正確ではありませんが、血糖が高いとヘモグロビン、アルブミンに糖が結合しますので、 HbA1c、糖化アルブミンを測定して診断や治療の進み具合を調べるのに使います。


3.糖尿病の種類

 糖尿病は原因が異なる病気の総称と考えられています。他の病気(例えば血糖が上がるホルモンが多くなる病気など)の一つの症状として血糖が高くなっている場合を二次性糖尿病といいます。人数はさほど多くなく、普通「糖尿病」といわないで、原因になる病気の名でよんでいます。
 これ以外の普通の糖尿病には二つの型があります。その一つは1型糖尿病(以前はインスリン依存型糖尿病)で膵臓の内分泌細胞が破壊されて、インスリン分泌がほとんどなくなっていますので、生きていくためにインスリンの注射がどうしても必要な型です。他の型は2型糖尿病(以前はインスリン非依存型糖尿病)で、インスリンの分泌はかなり保たれているのですが、分泌されたインスリンが十分に作用を発揮できない状態と考えられています。


4.なぜ糖尿病になるのか?

 1型糖尿病は膵ベータ細胞が破壊されてインスリンを分泌する能力が無くなるために起こります。破壊の原因は自己免疫、ウィルス、毒物がどによる場合が知られていますが、原因不明なものもあります。さいわい、日本では比較的少ない型です。
 2型糖尿病は昔から遺伝的な素質が関係しているといわれていました。たしかに糖尿病になる方の多い家族がありますし、糖尿病が非常に多い民族もあります。しかし、日本では戦後これだけ増えたのは遺伝だけでは説明できません。また、生活習慣によるともいわれます。しかし、同じような生活をしても糖尿病になる方とならない方がありますので、生活習慣だけが原因でもありません。糖尿病になりやすい素質の方が糖尿病になりやすい生活をすると糖尿病になるのです。現在多くの学者はインスリンそ出す膵ベータ細胞がどのくらいの量までインスリンを出すことが出来るかは遺伝によって先天的に決まっており、分泌されたインスリンがどの程度まで効率よく作用を発揮出来るかは後天的な生活環境により決まると考えています。したがって膵ベータ細胞が遺伝的に弱い方が糖尿病になりやすい生活(過食と運動不足、それによる肥満ストレスなど)をすると、膵ベータ細胞に無理がかかり、それが限界になると糖尿病が発症することになります。2型糖尿病の場合には1型と異なり、ベータ細胞は完全に壊れているわけではありませんので、負担を軽くするとある程度回復して、糖尿病は軽くなります。


5.糖尿病をどのようにしてコントロールするか。

 糖尿病は完治させられませんので、代謝を正常に保って直接の症状はもちろん、急性合併症、慢性合併症がでないようにします。これを「糖尿病をコントロ一ルする」といいます。この場合も血糖が目印になり、一日中血糖が出来るだけ正常に近いようにするのが目標になり、ヘモグロビンA1cや自己血糖測定が利用されます。
 1型糖尿病の場合にはインスリンが絶対的に不足していますので、まずインスリンを補給することが第一です。
 2型糖尿病の場合にはインスリンの作用が弱いのですから、まず、インスリンの作用を助けてやることを第一に試みます。この方法が食事療法、運動療法で、軽症の方は多少インスリンの分泌が減っていても間に合うようになります。最近の薬(トログリタゾン、メトフォルミン)でこの作用を助けるものも出てきました。
 しかし、2型糖尿病でも発病後時間が経っている方や重症の方はインスリンの作用を強化してもまだ十分でない場合は薬の助けを借りなければなりません。経口剤(スルホニル尿素剤)はベータ細胞からインスリンを出させるように働きます。またインスリン注射は直接体内のインスリンを補強します。けれども、食事療法、運動療法などをしないで薬剤だけ余計に使うと血糖の変動が大きくなり、代謝も完全に正常化しませんので、薬を使う場合にも必ず食事療法、運動療法をして薬の効き目が出るよう条件を作って出来るだけ少量の薬を使うようにすると、代謝の動揺を最小限におさえることができます。