(8)糖尿病の運動療法(理論)
 運動療法は食事療法とともに糖尿病治療の基本になるものですので、特別の場合以外は薬剤を使用していても必ず行うように勧めて下さい。運動療法は食事療法とともに糖尿病治療にとって意外に大きな効果がある治療法です。

1.運動は“療法”でなくて“生活の改善”です。

 運動すると筋肉はインスリンなしでも糖を消費します。その効果は運動している間ばかりでなく、その後も続きますが数日休むと無くなりますので、持続的に続けなければ意味がありません。したがって、生活の中に運動を取り込み、毎日実行出来るような運動法を考えて下さい。運動療法も食事療法と同じ様に“治療”ではなく“生活の改善”による治療なのです。
 まず、自分が毎日の生活の中でどの位運動しているのかを考えてみましょう。最近では仕事で体を動かす機会が減り、運動量が軽い仕事が多くなっていますし、車や電話で用事を足しますので、仕事中に運動する量が少なくなっています。運動というとスポーツを考えますが、特別にスポーツをしなければならないわけではありません。週に一回しか出来ないならばスポーツよりは毎日出来る生活の中の運動の方が勝っています。


2.体重を減らしたり、過食を解消するために運動療法を行うのではありません。

 運動は、たしかにカロリーを消費しますが、その量は考えるほど多いものではありません。“治療の手引き”には色々な運動をした場合、安静にしていた場合に比べどの位、カロリーを余計消費するか載っていますが、消費するカロリーは運動量に運動時間を掛けたものですから、長時間続けられない強い運動が、比較的軽い長時間の運動より消費するカロリーが少ない場合があります。糖尿病患者さんで減量を必要とする方が少なくありませんが、減量する時にも、食事療法とともに運動をお勧めするのは、食事制限だけで減量すると、脂肪組織ばかりでなく、筋肉組織も減ってしまいますので、運動で刺激を与えて、筋肉が減らないようにするためなのです。

3.適切な運動の量は患者さんごとに異なります。

 どのような糖尿病でも糖尿病自身には運動療法は有効です。しかし、糖尿病の患者さんが他の病気や合併症を持っている場合には運動が他の面ではマイナスに働く場合があります。このような場合には運動を行わないとか、軽い運動に止めておいた方が全体としては良い場合があります。
 かならず、運動の量の具体的な指示を受けましょう。薬と同じく運動も“処方”してもらいましょう。また運動の効果や副作用は最初から予測出来ない場合がありますので、最初は軽い運動から始めて、その効果や影響を調べてもらいながら次第に予定の運動量まで増やしてゆきます。運動の強さを正確に測定するのはかなり難しいのですが、自分にとってどの位の強さかは、脈拍数の増加で大体見当がつきます(ただし、年齢によって脈拍の増加率は異なります)。歩行で運動をする場合には、万歩計が目安になりますが、同じ歩数でも運動量は人により異なりますので、絶対的なものではありません。


4.薬を使っている時には運動をする時間にも注意を。

 運動している間は特に血糖が下がる傾向があります。従って、食事療法だけの時には食後に運動するのが効果的ですが、薬を使用している時には、その効果が強い時に運動すると、血糖が下がり過ぎることがあります。とくに、足や腕などにインスリン注射をしている時には運動すると吸収が速くなり、低血糖が起こることがありますので、運動する時間も指示を受けて下さい。