第62回日本糖尿病学会年次学術集会 学会報告
仙台で行われた第62回日本糖尿病学会に参加してまいりました。今年は雨にもたたられず良い気候の下で行われました。
メイン会場の仙台国際センターとポスター会場の仙台メディアパークとその周辺をシャトルバスで結ぶ運営でしたが、
どうもこれが離れすぎていて、「使い勝手のいい学会」にはならなかったようで残念でした。
仙台国際センターの地下鉄駅前には羽生弓弦と荒川静香の透明なクリスタルのモチーフが建ち、その前でイナバウアーの
ポーズで写真に納まる女性参加者の姿も見られました。
学会情報ですが、今年は食事療法に変化がありそうです。
糖尿病の食事療法でははじめに「指示カロリー」を設定しますが、これまで「指示カロリー」はBMI22を基準にした「理想体重」に
活動強度をかけて算出していました。
まずこのBMI22が良い、というのが変わります。特に高齢者は小太りのほうが平均余命が長いというデータがあり、年齢別にBMIの
基準を変えるようです。また高齢者はフレイルの問題もあり、活動強度を多く設定したほうが良いということで、この算出の仕方も
変えるようです。太った人には食事制限を、やせた高齢者にはあまり制限せずなど個別の案件を勘案して・・・というのは今までも
やっていたことですが、より個別の案件を考えてやってくださいということになるようです。
具体的な算出方法はさらにパブリックコメントを求めてから決定されるようです。カーボカウントも徐々に広まり、そもそも
食事制限が必要なのか?医療者だって結構飲み食いしているじゃないか。そもそも食事療法なんて絵に描いた餅だなどの
不満もあり、現在食事療法はあきらかに曲がり角です。
それを画一的なものではなく、個々の条件をよく見て相談の上行っていくという望ましい方向につながるのであれば
それは良いことかと思います。それをいい方向にするかはあなた次第ですが。
今年の学会発表からポスターの発表の仕方が変わりました。デジタルポスターというらしいのですが、従来のようにポスターを
貼っておくのではなく、ポスター会場をいくつかに区切り、そこでスライドを使って発表する口演のミニ版のようなものになりました。
従来のように貼ってあるポスターを眺めて歩き、目についたものを立ち止まってよく読むなどということができず、パソコン上でしか
検索できなくなりました。発表する側はポスターを作らなくてよくなりましたが、見る側にとっては「何を求めて学会場に来たのか」
が問われ、参加しにくくなるような気がしました。
さて、当院からは医師5題、薬剤師1題、計6題の発表をしてきました。
野口景子薬剤師 「期限切れリブレセンサーのデータ正確性の検討」
感想:期限切れのリブレセンサーは期限内のリブレセンサーと比較して低値を示すという発表をしました。座長の先生、
会場の先生からも質問を頂き、関心を持って頂けたと感じました。補正を必要としないリブレセンサーは簡便ですが、
急な血糖変動時には正確性に欠ける点などが挙げられます。今後、リブレセンサーを利用する患者には様々な指導が
必要だと考えられます。
種田紳二医師 「SGLT2阻害薬投与における越中ケトン隊の胴体について」
感想: SGLT2阻害薬はどの製品もグルカゴンもケトン体も上昇するとの常識に挑戦した発表でした。もう少し例数を増やして
次回に挑戦したと思います。
土田健一医師 「男性高齢2型糖尿病に発症した糖尿病性舞踏病の一例-病因論的考察を踏まえて」-
感想:今回は発表形式がデジタルポスターという初めての試みでほぼ口演発表と同じ発表形式でした。
発表時間が3分と短かったため、時間内にまとめるのが大変でした
坂東秀訓医師 「外来糖尿病患者におけるRPL-Cと他脂質との関連について」
感想:今回の発表はレムナント(RLPコレステロール、以下RLPC)についてのものであったが、これまで2018年北海道地方会、
2019年日本病態栄養学会での我々の発表を含めて思うことは
1,「残余リスク」なる言葉が、十分な啓発なく一人歩きしている
2,その「残余リスク」の代表格であるnonHDLはTGのみを代表しているものではないということである。
加えて3,RLPCがTGと統計学的には関連が深い
ことを糖尿病の実臨床下で明らかにできたことは意義があったと考えられる。
実際、今回の発表ではRLPCとnonHDLの違いについての質問もあり、nonHDLと他脂質の関連について先行して病態栄養学会で
発表したからこそ、他脂質と前記両者の統計学的な違いを回答することができた。ただ、これら一連の発表では、薬剤との
関連については、言及していなかった為、次回以降の課題とし、来年以降発表予定である。
大場知穂医師 「正常耐糖能者のブドウ糖負荷試験後血糖推移におけるアルコール摂取の影響」感想:発表テーマが「アルコール」
と身近なものだったからか聴講の皆様からはたくさんご質問を頂き、大変刺激的な有意義なものとなりました。
発表の機会をいただき誠に有り難うございます。」
飯島康弘医師 「DPP-4阻害薬とメトホルミン内服中の患者をアログリプチン/メトホルミン配合錠へと変更した際の治療効果、
治療満足度の変化の検討」
感想:本演題では従来の薬剤使用が合剤に変更することにより、血糖改善効果が得られただけでなく、治療満足度が上昇する
ということを報告してきました。やはり糖尿病とは短期ではなく長期持続した結果を得ることを要する疾患です。
そのため治療目標には様々な観点を要すると考えられます。
そのようなテーマで講演されていることも多く、性別、年齢、罹病期間などの「患者の多様性」に合わせた
「治療の多様性」を重視し、テーラーメイド医療を行うことも必要になっていくと感じました。
今後の自身の診療にも活かしていきたいと思います
来年の第63回日本糖尿病学会は大津市で開催されます。琵琶湖で会いませう。(種田 記)