学会報告:第53回日本糖尿病学会年次学術集会
 

第53回日本糖尿病学会年次学術集会が5/27-29岡山市で開催されました。
比較的小さな町に12000名もの参加者が集い、糖尿病の進歩のために有意義な討論が行われました。
今年は例年の混雑緩和のために様々な工夫がなされていました。ひとつは会場を駅周辺のビルに集中させ、それらをテレビ回線でつなぎ、どの場所にいても講演が聞けるようにしたこと、もうひとつは学会の参加やセミナーの参加に事前登録制度を設け、岡山に来る前に手続きが終わっているようにしたことです。これによって例年ランチョンセミナーの弁当の券を求めて長蛇の列ができるのが若干改善されたようでした。
ただ、残念ながら会場の狭さはやむを得ないところで私が座長をしたポスター会場では異例の入場制限がなされ、やはりある程度広い会場が必要だと改めて認識させられたところでありました。
 

駅前の桃太郎の銅像。有名な吉備(黍)団子は猿と犬と雉へのご褒美で、いまやお土産の定番。フルーツ味もある。

 

こじんまりとした会場が駅周辺に数箇所。歩いても5分以内のところにコンパクトにつながれ、まとまっている。

当院よりの参加。精鋭たち。

 

当院の発表

萬田 直紀(院長)  
口演「食事療法7」 座長

種田 紳二(外来医長) 
ポスター「地域医療・医療情報1」  座長 

菊池 実  (放・技師長) ポスター
「飲水超音波検査法による糖尿病患者の消化管運動障害の評価」

佐々木俊昭(検・技師長) ポスター
「OGTT後に追加した、尿中ミオイノシトール(UMI)の有用性について」

滝田 瞬子(SCW) ポスター
「入院後に知的障害が認定された糖尿病患者を支える支援作り」

葛葉 守  (薬剤師) ポスター
「高リン血症治療剤ホスレノールチュアブル錠服用患者調査」

 

今回のトピックスは3つ
@インクレチン製剤という新しいジャンルの薬が実際に使われるようになって、その成績が示されたこと。
A糖尿病の診断基準が11年ぶりに新しくなったこと。
B現在使われているHbA1cの値が近々変わると決めたこと。です。

@2型糖尿病は食後のインスリン分泌が悪いといわれていますが、それはGLP-1という消化管ホルモンの分泌が悪いためといわれています。GLP-1は食事の栄養素をすばやく感知して小腸から分泌され、速やかにすい臓からインスリンが分泌させる働きをします。このためこのGLP-1を治療に使おうという研究が長年なされました。ところが、GLP-1はPP-Wという酵素ですばやく分解されるのでなかなか薬としては使えませんでした。そこで、2つの方法が、考えられました。一つはこのDDP-Wの働きを抑える経口薬。ひとつはDPP-Wの影響を受けないGLP-1類似物質の注射薬。この両者が相次いで発売され実際の臨牀現場に登場しました。前者のDPP-W阻害薬は単独でも他の薬と併用でもHbA1cをやく1%下げる効果が認められています。さらに体重は増加せず、長期安定した効果が示されています。後者は毎日インスリンのように皮下注射することによってHbA1c2%弱血糖値を下げる効果があり、体重減少も見られます。さらに特筆すべきは両者とも低血糖を起こしづらくその意味では非常に安全な糖尿病薬といえます。この両者の紹介、成績の発表が先駆け的に成されていました。

Aは従来糖尿病の診断は主に血糖値によって行われていました。すなわち空腹時血糖>126、OGTT2時間値>200随時血糖>.200のいずれかが2回以上見られれば糖尿病とされていました。ところが、HbA1cがかなり普及しており、国際基準に多少合わせる意味もあり、今回血糖値ばかりでなくHbA1cが高くても糖尿病と診断するように改定されました。(図左参照)コレによって、たとえば1回の受診で糖尿病の診断がつき、すぐに治療に取り掛かれることも可能になりました。今回11年ぶりに改定され、正式に決定いたしました。
 

 

Bはコレまで欧米のHbA1c値は日本のHbA1c値より高い値になっているといわれていました。国際比較が重要になっている昨今、コレを統一しなければいけないということになり、今回欧米に基準に統一することになりました。具体的には、日本で今使われているHbA1c値に0.4%加えて表示をすることとしました。当然コントロール基準も0.4%加えた値に書き換える必要があります。これらが混乱なく周知徹底するために1年ほどの時間をかけて書き換えて行くことになりました(図右参照)。

 

(記 種田)