1.糖尿病はインスリンの作用の不足、それを最もよく表すのが血糖
糖尿病は膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞から分泌されるインスリンというホルモンの作用が弱くなって、体内の代謝が乱れて起こる病気です。この乱れを最も敏感に表現するのが血糖(血液中のブドウ糖の濃度)です。健康者では血糖が正常になるように体内のインスリンの分泌が調節されていますが、糖尿病では分泌が悪くなったり、分泌されたインスリンが正常に作用しないために、血糖が高く(高血糖)なります。血糖の値は個人差がありますが平均すると、健康な人では早朝空腹の時には80mg/dl(0.08%)くらいで、食後2時間で100mg/dl(0.1%)くらいになります。軽い糖尿病では空腹時の血糖の上昇は軽度ですが、食後の血糖は著明に上昇します。血糖が180mg/dl(0.18%)くらいを越えると尿の中にブドウ糖が洩れだし、尿糖が出てきます。軽い糖尿病では食後だけ尿糖が陽性で、重くなると空腹時の血糖の上昇も著明になりますので、一日中尿糖が陽性になります。しかし、尿に糖がでる血糖の濃度は個人差がありますので、確実な糖尿病の目印にはなりません。
2.重くならないと現れない自覚症状
糖尿病による口渇、多尿、多食、やせ、からだのだるさなどの自覚症状はよく知られていますが、全ての糖尿病の人に自覚症状があるとは限りません。かなり血糖が高くならないと、自覚症状は現れませんし、あっても気のせいにしてしまっている方もあります。ときにはかなり重症でも症状がないことがあります。そのような方でも急に症状が出てきたり、急性の合併症(傷が治り難い、感染しやすい、妊娠の時の合併症)、長く続くと慢性合併症(網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化の促進)がでてきたりしますので、糖尿病の治療をしなければなりません。そのために血糖を測定して糖尿病を診断します。ある程度以上血糖が高いときには(早朝空腹時で126mg/dl、75gブドウ糖を飲んだ2時間後で200mg/dl)自覚症状がなくても、糖尿病と診断します。また、血糖ほどは正確ではありませんが、血糖が高いとヘモグロビン、アルブミンに糖が結合しますので、HbA1c、糖化アルブミンを測定して診断や治療の進み具合を調べるのに使います。
3.糖尿病の種類
糖尿病は原因が異なる病気の総称と考えられています。他の病気(例えば血糖が上がるホルモンが多くなる病気など)の一つの症状として血糖が高くなっている場合を二次性糖尿病といいます。人数はさほど多くなく、普通「糖尿病」といわないで、原因になる病気の名でよんでいます。
これ以外の普通の糖尿病には二つの型があります。その一つは1型糖尿病(以前はインスリン依存型糖尿病)で膵臓の内分泌細胞が破壊されて、インスリン分泌がほとんどなくなっていますので、生きていくためにインスリンの注射がどうしても必要な型です。他の型は2型糖尿病(以前はインスリン非依存型糖尿病)で、インスリンの分泌はかなり保たれているのですが、分泌されたインスリンが十分に作用を発揮できない状態と考えられています。
4.なぜ糖尿病になるのか。
1型糖尿病は膵ベータ細胞が破壊されてインスリンを分泌する能力が無くなるために起こります。破壊の原因は自己免疫、ウイルス、毒物などによる場合が知られていますが、原因の不明なものもあります。さいわい、日本では比較的少ない型です。2型糖尿病は昔から遺伝的な素質が関係しているといわれていました。たしかに糖尿病になる方の多い家族がありますし、糖尿病が非常に多い民族もあります。しかし、日本では戦後これだけ増えたのは遺伝だけでは説明できません。また、生活習慣によるともいわれます。しかし、同じような生活をしても糖尿病になる方とならない方がありますので生活習慣だけが原因でもありません。糖尿病になりやすい素質の方が糖尿病になりやすい生活をすると糖尿病になるのです。現在、多くの研究者はインスリンを出す膵ベータ細胞がどのくらいの量までインスリンを出すことが出来るかは遺伝によって先天的に決まっており、分泌されたインスリンがどの程度まで効率良く作用を発揮出来るかは後天的な生活環境により決まると考えています。したがって膵ベータ細胞が遺伝的に弱い方が糖尿病になりやすい生活(過食と運動不足、それによる肥満、ストレスなど)をすると、膵ベータ細胞に無理がかかり、それが限界になると糖尿病が発症することになります。2型糖尿病の場合には1型と異なり、ベータ細胞は完全に壊れているわけではありませんので、負担を軽くするとある程度回復して、糖尿病は軽くなります。また1型糖尿病の中にははじめはインスリンが分泌され2型糖尿病のようであったのに徐々に進行してインスリンが分泌されなくなっていくタイプがあります。これを緩徐進行1型糖尿病といいます。
5.糖尿病をどのようにしてコントロールするか。
糖尿病は完治させられませんので、代謝を正常に保って直接の症状はもちろん、急性合併症、慢性合併症がでないようにします。これを「糖尿病をコントロールする」といいます。
この場合も血糖が目印になり、一日中血糖が出来るだけ正常に近いようにするのが目標になり、ヘモグロビンA1cや自己血糖測定が利用されます。1型糖尿病の場合にはインスリンが絶対的に不足していますので、まずインスリンを補給することが第一です。
2型糖尿病の場合にはインスリンの作用が弱いのですから、まず、インスリンの作用を助けてやることを第一に試みます。この方法が食事療法、運動療法で、軽症の方は多少インスリンの分泌が減っていても間に合うようになります。最近の薬(アクトス、メデットなど)でこの作用を助けるものも出てきました。
しかし、2型糖尿病でも発病後時間が経っている方や重症の方はインスリンの作用を強化してもまだ十分でない場合は薬の助けをかりなければなりません。経口薬(スルホニル尿素薬)はベータ細胞からインスリンを出させるように働きます。またインスリン注射は直接体内のインスリンを補給します。けれども、食事療法、運動療法などをしないで、薬剤だけ余計に使うと血糖の変動が大きくなり、代謝も完全に正常化しませんので、薬を使う場合にも必ず食事療法、運動療法をして薬の利き目が出るよう条件を作って出来るだけ少量の薬を使うようにすると、代謝の動揺を最小限におさえることができます。
糖尿病は、『慢性の高血糖』を特徴とする病気ですが、高血糖があっても、何も自覚症状がない場合が少なくありません。血糖が極端に高くなると、のどのかわき、多飲、多尿、体がだるい、疲れやすいなどの高血糖による症状が出てきます。また、合併症が進行すると、手足のしびれ(神経障害)、視力低下(網膜症)、むくみ、高血圧、食欲低下(腎症)などの症状が出てきます。しかし、注意しなければいけないのは、これらの症状は糖尿病がよほど悪くならないと出てこないということです。言い換えれば、なにも症状がないからといって、糖尿病は悪くない、合併症はないとはとても言えないということです。実際、合併症がかなり進行してしまってから病院を受診される人が後をたちません。糖尿病は、検査をしなければコントロールが良いのか悪いのか、合併症がないのかあるのか、合併症が進行しているのかいないのかが分からない病気なのです。ですから、治療を中断せず、検査を定期的に受けて、自分の糖尿病が、どのような状態にあるのかを常にチェックし、早めに対処する必要があります。 糖尿病は、体全体の病気ですから、検査も血糖関係の検査だけでなく、色々検査が必要です。
糖尿病に必要な検査一覧
01)胸部レントゲン写真
02)心電図
03)足のレントゲン写真
04)足の血流検査(ドップラー血流検査)
05)脈波伝播速度(PWV)
06)呼吸機能検査
07)CTスキャン(脳、腹部)
08)超音波検査(心臓、腹部、甲状腺など)
09)体重
10)尿検査
11)血液検査
12)神経伝導速度
13)眼底検査
01)胸部レントゲン写真
心臓肥大の有無、動脈硬化の進行の程度、肺の病気の有無などを調べます。
02)心電図
動脈硬化による心臓の病気(狭心症、心筋梗塞など)の有無、不整脈の有無などを調べます。
03)足のレントゲン写真
正常では、血管はレントゲン写真では写りませんが、動脈硬化が進行すると、血管の壁にカルシウムがたまってくるため、レントゲンに写るようになります。
04)足の血流検査(ドップラー血流検査)
動脈硬化が進行すると、足の血液の流れが悪くなり、歩くと足がいたくなったりします。足先まで血液が正常に流れているかどうかを調べます。
05)脈波伝播速度(PWV)
動脈硬化が進行すると、腕から足首までの血液の流れの信号(脈波)の伝わる速度が早くなります。この速度を測ることで、主に左右の下肢の動脈硬化の程度を知ることができます。また同じ機械で動脈の閉塞の程度(ABI)も調べます。
06)呼吸機能検査
動脈硬化などで、心臓の働きが悪くなると、肺機能も低下してきます。肺活量、肺から空気を押し出す力などを調べます。
07)CTスキャン
脳CTスキャン:糖尿病が長い間あると、何も症状がなくても脳に小さな血管のつまり(多発脳梗塞)が起こっていることがあります。脳CTスキャンにより、そのような変化がないか調べます。
腹部CTスキャン:肝臓、胆のう、膵臓、腎臓がみえるので、悪性腫瘍がないかが分かります。糖尿病が急に悪くなった場合、体のどこかに悪性腫瘍のある可能性があります。また、肥満のある場合は、脂肪が、皮下にたまっているのか、お腹の中(内臓脂肪)にたまっているのかが分かります。
08)超音波検査
心臓超音波検査:実際に心臓が動いている状態が見えます。
胸部レントゲン写真ではわからない心臓の壁の厚さ、弁の動き、弁膜症の有無、心筋梗塞(新旧)の有無などが分かります。腹部超音波検査:CT検査とほぼ同じことが分かりますが、胆のう、肝臓などは、病気によっては超音波検査のほうが、良く分かることがあります。
甲状腺超音波検査:甲状腺に異常があると糖尿病が悪化することがあります。甲状腺がはれていないか、腫瘍がないかなどを調べます。
09)体重
自分の標準体重(統計的に病気が一番少ない体重)は、[身長(m)×身長(m)×22]で求めることが出来ます。この理想体重より10%以上多い人は、医師の指示に従って減量をこころがけてください。肥満のある人の糖尿病は、減量により確実に改善します。また、糖尿病のコントロールが良くても肥満があると動脈硬化が進行します。減量により動脈硬化の進行をおさえることができます。
10)尿検査
(1) 尿糖
血糖が160?180mg/dlを越えると尿に糖がでてきます。しかし、これには個人差があり、血糖が高くても尿糖 が陰性の場合や、逆に、血糖が低くても尿糖が陽性となる(腎性尿糖)場合があります。自己血糖測定が普 及した現在では、以前ほど血糖コントロールのめやすとしては用いられなくなりました。
(2) 尿ケトン体
糖尿病が極端に悪い時は、血中のブドウ糖を利用できなくなるため、かわりに脂肪が分解され、その産物と して尿にケトン体が出てきます。血液中にもケトン体がたまると、血液が酸性になりケトアシドーシスとい う重症の状態になります。
(3) 尿蛋白
尿蛋白は、膀胱炎、慢性腎炎などでも認められますが、糖尿病歴が長く、コントロールの悪い場合には糖尿 病の合併症の一つである腎症の存在が疑われます。腎症の初期には、普通の検査で、蛋白が陰性でも、詳し く調べると極少量の蛋白尿(微量アルブミン尿)がでてきます。この段階では血糖をよくすることで蛋白尿 を減らすことができます。定期的なチェックが必要です。
(a)血糖関連検査
(1) 血糖
血糖とは血の中のブドウ糖濃度のことです。正常では、空腹時血糖は60?100mg/dl位、食後でも120mg/d lは 越えません。糖尿病の人の血糖値の目標は空腹時で120mg/dl未満、1日の一番高いところ(食後約2 時間)で120?170mg/dl未満ですが、より正常に近いほうが良いことは言うまでもありません。
(2) HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)(グリコヘモグロビン、糖化ヘモグロビン)
血糖値が慢性に高いと、血液の赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白質にブドウ糖がゆっくり結合 してゆきます。このブドウ糖が結合したヘモグロビンのことをヘモグロビン・エー・ワン・シーといい ます。
HbA1cは約1ヶ月前から現在までの平均血糖を表しています。血糖は、食事の前後で、短時間の間に変 化(上下)しますが、HbA1cはゆっくり変化するため、食事の前後では変化しません。そのため、長い 目でみた糖尿病のコントロールの善し悪しは、HbA1cをみるとよくわかります。HbA1cが常に8%を越え ていると、将来糖尿病合併症が出てくる可能性が非常に大きくなります。
HbA1cの正常値は6%以下です。糖尿病の人は、7%以下、できれば6.5%以下を目標にしましょう。HbA 1cが正常に近い程、糖尿病合併症は出にくいことがわかっています。
(3) GA(グリコアルブミン、糖化アルブミン)
血糖値が高いと、ブドウ糖は、ヘモグロビンだけでなく、血液中の蛋白質の一つであるアルブミンにも 結合します。HbA1cが約1ヵ月間の平均血糖を表すのに対し、グリコアルブミンは約2週間の平均血糖を 表しています。糖尿病の人はこの値が20%以下を目標にします。
(4) 尿中1,5AG(1,5アンヒドログルシトール)
この物質は、血糖が高い程、尿中の値が減少します。血糖が変動すると数日で1,5AGも変化するので 、数日間の血糖コントロールの状態が分かります。
(b)血中インスリン、C−ペプチド
膵臓からどれくらいインスリンが出ているのかが分かります。この検査の結果から、治療法として食事療法 だけで良いのか、飲み薬、インスリンが必要なのかがある程度推良いのか、飲み薬、インスリンが必要なの かがある程度推測できます。
(c)抗GAD抗体
自分の膵臓に対する抗体(自己抗体)のひとつです。1型糖尿病のときに陽性に出ます。現在インスリン分 泌があってもこの抗体が強陽性の時には、先ほど説明した緩徐進行1型糖尿病の可能性が高く、早くインス リン治療を開始することが勧められます。
(d)血中各種ホルモン
糖尿病のなかには、インスリン以外のホルモンの病気が原因で糖尿病状態になっている(二次性糖尿病)場 合があります。この場合は、治療により糖尿病を完全に治すことができます。頻度は少ないのですが、この 二次性糖尿病を除外するために、各種ホルモンの検査をします。
(e)血液生化学検査
いわゆる一般血液検査です。貧血の有無、肝機能、腎機能、コレステロール、中性脂肪などを調べます。
12)神経伝導速度
糖尿病のコントロールの良くない状態が5年以上続くと、体の隅々まで走っている末梢神経の働きが悪くなり、手足のしびれ、自律神経障害などが起こってきます。この検査は、神経に刺激をあたえて、実際に神経の中を刺激がどのくらいのスピードで伝わるかを調べるものです。正常では手の正中神経では刺激の伝わるスピードは54m/秒以上、足の腓骨神経では42m/秒以上です。
13)眼底検査
自分では、視力の低下もなく、何も異常がないと思っていても、眼底に糖尿病の合併症(網膜症)のある人がたくさんいます。視力低下や失明という最悪の事態を避けるため、定期的に眼底検査を受け、異常があったら、早めに対処することが大切です。治療を中断することなく、糖尿病と共にあゆみ、『一病長寿』をめざしましょう。
SMBG ; Self Monitoring Blood Glucose(自己)(測定)(血液)(ブドウ糖)
1. 血糖自己測定はなぜ必要か?
自己測定を行うことによってこれまでの受け身的な立場から、患者さん自身にも治療者の一員となってもらいます。これにより良いコントロールを維持しようとする意欲と行動が持続できる事が期待されます。
1) 1日24時間いつでもどこでも血糖の動きを知ることができます。
2) 体調をくずした時、ケガをした時、いつもと違うなと感じた時、その時点で血糖をチェックすることが出来ます。
3) 血糖自己測定を定期的に行い主治医に報告することにより治療の手助けとなります。
4) 薬物療法をしている方は低血糖、高血糖時すぐに対処することが出来ます。
5) 血糖値の高い場合、食事、運動など日常生活を振り返るきっかけとなります。
6) 安全な妊娠、出産が計画的に出来ます。
2. 血糖自己測定の方法
測定器に試験紙を挿入後、指先を穿刺器と穿刺針で穿刺し、少量の血液を試験紙に吸引します。
試験紙に血液が吸引されると測定が開始され、数値が表示されます。
低血糖とは、血液中の糖分が少なくなりすぎた状態をいいます。経口血糖降下薬の内服やインスリン注射をしていない人は、原則として低血糖にはなりません。 低血糖の症状として《冷や汗、動悸、手足のふるえ、空腹感、脱力感》などがあります。さらに症状が進むと昏睡状態になる事もあります。原因として、インスリン注射や経口血糖降下薬の量が多すぎたり、食事量の不足、食事時間の遅れ、運動量の多すぎる場合におこります。空腹時におこりやすく、甘い物を食べると急によくなるのが特徴です。
1. 低血糖になったら
自己血糖測定をしている人は、血糖を測定して下さい。
血糖値が70mg/dl以下の場合や低血糖症状がある人はブドウ糖を飲みます。その後30分安静にしても血糖が上昇しないとか、症状がとれない時は、再度ブドウ糖を飲んでください。さらに、低血糖の状態が続く時は病院に連絡または受診をしましょう。外出時は、必ず糖尿病手帳、ブドウ糖、自己血糖測定器(持っている人)を持ち歩き低血糖になったら速やかに対処します。
2. 低血糖を予防するために
食事は、1日の総カロリー量を守り、バランスよく、規則正しい時間にとりましょう。運動は、しすぎることなく食後に必要な運動量を守り、特にインスリン注射や経口血糖降下薬の内服をしている時は、食前あるいは薬の効果が強く出る時間帯を避け、インスリン注射についても自分専用のものを正しい時間に、正しい量で、正しい部位にしましょう。アルコ一ルは、血糖のコントロールを乱し、また低血糖をひきおこしやすいこともあります。
高血糖とは、何らかの原因で血液中に糖分が多すぎる状態をいいます。 インスリン注射や経口血糖降下薬の内服を勝手に中止したり、食べ過ぎ、飲み過ぎ、ストレス、カゼやケガ等の感染症にかかった場合におこります。
糖尿病のない人の血糖値は空腹時では60〜100mg/dL位、食後でも120mg/dL以上にはなりません。
多くの糖尿病の方の血糖値の目安は、空腹時で130mg/dL未満、食後2時間で180mg/dL未満ですが、高血糖が続くと合併症にかかりやすくなります。
空腹時血糖が160mg/dl以上なら赤信号で、車通りの激しい道路を横切るようなものです。
空腹時血糖が130〜160mg/dlくらいなら黄信号。
空腹時血糖が130mg/dl未満なら、青信号で道路を渡るようなもので安全です。
2. 高血糖症状には、次のようなものがあります。
3. 高血糖になったら
自己血糖測定をしている人は、血糖値を測定して下さい。
応急処置として水、お茶、むぎ茶、ウーロン茶など(糖分の含まないもの)の水分をたくさんとるようにして下さい。2時間後に再度血糖の測定をしてまだ高血糖が続く時は、病院に連絡をするか受診をして下さい。
インスリン注射をしている人で、主治医から高血糖時の指示が出ている場合は、その指示に従って下さい。勝手に自分の判断でインスリン注射の追加はしないで下さい。
指示された食事、運動、インスリン注射や経口血糖降下薬などの量を守っているにもかかわらず高血糖が続く場合は、早めに受診しましょう。
4. 高血糖を予防するために
食事は、バランスのとれた内容で指示された量(カロリー)を規則正しい時間にとりましょう。運動は、毎日実行出来るような方法を考えましょう。インスリン注射や経口血糖降下薬も勝手に自己判断で変更しないようにして下さい。ほかに病気やケガをした時は、早めに病院を受診して治療をしましょう。
食事療法は糖尿病治療の基本です。いかに薬をうまく使っても食事が適切でないと糖尿病は克服できません。しかし、現在の糖尿病の食事は、健康な方が通常の生活をするのに必要なカロリーや栄養素のバランスのとれた良い食事なのですから、早く慣れましょう。
1. 食事療法はゆっくりと効果がでます。
食事療法はゆっくリと効果がでてきますし、止めれば後戻りしてしまいますので、続けて行かなければ“もとのもくあみ”になってしまい役に立ちません。食事は毎日毎日三度のことですので、“治療”ではなくて生活を改善するのだと考えて下さい。生活を規則正しくすることも、大事なことです。
2. 今までの食事を反省してみましょう。
ご自分でも、今までの食事がどんな内容だったか、また、ご自分の食事が他の人に比べて多いのか、少ないのか、内容がどう違うのかご存じない場合が少なくありません。まず、今までの食事を書き出して栄養士に見ていただきましょう。おやつ、ドリンク、外食も忘れないで下さい。貴方のいままでの食事の量の多寡や質の偏りが分かリますし、嗜好もわかって、これからの食事を指導していただくのに役に立ちます。入院しておられる場合には病院の食事で大体の感じを掴んで下さい。糖尿病の悪い時には空腹感を感じることがありますが、食事療法が効いてきて糖尿病が良くなると、お腹が空かなくなりますし、体が健康な感じになってくるものです。
3. 食事の量や中味に強くなろう。
自分の今までの食事が大体分かったら、食品や食事の量を計ってみましょう。思っているのと随分違う場合があることに気付くことがあるはずです。ごはん一杯でもお茶碗の大きさでかなり違いますし、食品全体と食べる部分では差があります。大体見当がついたら、「食品交換表」の出番です。第6版の交換表は食品の写真が実物の1/2になっていますので、大きさの見当がつくと思いますが、実際に計ればさらに正確になります。
4. 糖尿病の食事療法の原則
「摂取する食事の総カロリー(エネルギー)を必要量にとどめ、その中で栄養素のバランスをとる」ことです。絶対食べていけない食品もありませんし、それだけ食べれば後は自由という“健康食品”もありません。
一日に必要な力ロリーは主に標準体重と運動量(主に職業)により決まります。身体を動かす人はそれだけ必要力ロリーが増えますし、糖尿病が重くて必要カロリーの食事で血糖がコントロ−ル出来ない時には薬剤を使います。必要力ロリー計算の基礎となる標準体重は現在の体重ではなく身長(m)の二乗に22を掛けて計算するか、身長と年齢、性から標準体重表を使って調べます。食品交換表では80Kcalを一単位といっていますからこの必要カロリーを80で割った数が必要単位になります。食品交換表には15、18、20、23単位の食事の各表への配分が載っていますので、これに従って各表から食品を選ぶと総カロリーもその中の栄養素配分も丁度よい食事が出来ます。各表の中で同じ単位の食品を好みに従って変えるのは自由ですが、あまり極端に偏らない注意は必要です。野菜の大部分は量を気にしなくてもよい食品で、ビタミンや食物繊維の供給の上でも大切です。
5. 患者さんごとに異なる食事の調節
必要カロリーは同じ身長、性、年令、運動量でも各個人で若干差があります。したがって、計算した量の食事で治療の効果を見て、調節する必要のある場合があります。また、太った方は標準体重になるまで、すこしカロリーを制限しなければならない場合があります。
また、他の病気や合併症を持っている方は力ロリーの配分を変えたり、その他の点を注意(塩分、コレステロ一ルなど)したりして、食品を選ばなければならない場合があります。
6. その他
食事療法だけの方は食事は一日で考えて、あまり偏らなければ配分はあまり厳密でなくてもかまいませんが、薬剤を使っている方は、とくにインスリンを注射している方は一日のカロリー量ばかりでなく、配分や食事時間も大事ですので、あまり変えないようにして下さい。
1. 食品の選び方
1)炭水化物を中心にする食品について
同量の糖質でも、吸収の早い糖質と遅い糖質があります。菓子類や嗜好飲料に入っている砂糖や果物の糖は 、血糖植が早くに上昇しますので量やとる時間に注意しましょう。又、炭水化物は体の中で工ネルギーとな る働きがあります。毎日必ず食べる事を忘れないようにしましょう。
2)蛋白質を中心とする食品について
同じ表3の仲間でも脂肪の多い食品は、1単位の量が少なく、脂肪の少ない食品は量が多くなります。体の バランスのためには、どちらかに偏らずに脂肪の多い物、少ない物をとりまぜて食べましょう。
又、蛋白質は体を作る働きがありますが、とり過ぎは腎臓等に負担をかけてしまいます。
3)脂肪を中心とする食品について
油脂類は、蛋白質や炭水化物の約2倍の工ネルギーを持っています。揚げ油の取り過ぎや脂肪の多い食品に 注意して、1日単位の中で食べましょう。又、エネルギーが高いからといって脂肪をひかえ過ぎると、ビタ ミン類が吸収されない等の状態が出てきます。適量を守って毎日とるようにしましょう。
4)ビタミン、ミネラルを中心とする食品について
野菜や海草は、ビタミン、ミネラルの大切な供給源です。
野菜は1日300g、海藻、きのこ、コンニャクも毎日食べるように心がけましょう。又、1日に野菜の量のう ち1/3量は色の濃い野菜(ほうれん草等)とし、油を使って食べるようにするとよいでしょう。
5)その他
調味料や嗜好品は、気をつけてとったほうがよいでしょう。みそ汁は1日1杯、調理には砂糖を使わないよ うにしましょう。
1) 食品交換表
1日に必要なエネルギー(力ロリー)を蛋白質や脂肪、炭水化物のバランスをとりながら食べるための辞典 です。1単位のグラム数や目安を覚えて、バランスよく食べて下さい。
食 品 分 類 表
群 |
表 |
食品 |
1単位80カロリー当たりの各栄養素含量の平均値 |
||
白質 (グラム) |
脂 質 (グラム) |
炭水化物 (グラム) |
|||
炭水化物を主として供給する食品 |
表1 |
こく類、いも類、豆類(大豆及びその製品を除く)炭水化物の多い野菜及び種実類 |
2 |
- |
18 |
表2 |
果実 |
- |
- |
20 |
|
蛋白質を主として供給する食品 |
表3 |
魚介類、鳥獣鯨肉類及びその加工品、卵、チーズ、大豆及びその製品 |
9 |
5 |
- |
表4 |
牛乳及び乳製品(チーズを除く) |
4 |
5 |
6 |
|
脂質を主として供給する食品 |
表5 |
油脂類及び多脂性食品 |
- |
9 |
- |
ビタミンおよびミネラルを主として供給する食品 |
表6 |
野菜類(炭水化物の多い一部の野菜を除く)藻(海草)類、きのこ類、こんにゃく |
5 |
1 |
13 |
表1は、炭水化物を中心として少しのタンパク質を含み、食生活では主食となる部分で、大切なエネルギー 源です。
表2は、炭水化物、ビタミン、ミネラルが主体です。
表3は、主に蛋白質を中心とした食品で少量の脂肪も含みます。
表4は、蛋白質を中心とした乳類で、同時に炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルを補給。
表5は、油だけでなく、油の多い食品もすべて入ります。とりすぎに注意しましょう。
表6は、ビタミン、ミネラルのみでなく、体に大切な食物繊維が中心です。
糖尿病食単位配分表
|
食品 |
単位 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
24 |
25 |
表 |
|
Kcal |
1040 |
1120 |
1200 |
1280 |
1360 |
1440 |
1520 |
1600 |
1680 |
1760 |
1840 |
1920 |
2000 |
1 |
穀類・芋・糖質の多い野菜豆大豆は除く |
6 |
7 |
7 |
8 |
9 |
9 |
10 |
11 |
11 |
12 |
12 |
13 |
14 |
|
2 |
果実 |
0.5 |
0.5 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
|
3 |
魚介類 |
3 |
3 |
3 |
3 |
3 |
4 |
4 |
4 |
5 |
5 |
5 |
5 |
5 |
|
肉類 |
|||||||||||||||
卵 |
|||||||||||||||
大豆製品 |
|||||||||||||||
4 |
牛乳・乳製品 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
|
5 |
油脂類 |
0.5 |
0.5 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
2 |
2 |
2 |
|
6 |
野菜類 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
|
調味料 |
砂糖、味噌、みりんなど |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
|
副食の単位合計 |
7 |
7 |
8 |
8 |
8 |
9 |
9 |
9 |
10 |
10 |
11 |
11 |
11 |
2)間違えやすい食品
表1から表6までの食品の中で、間違えやすい食品が色々あります。それぞれの仲間をしっかりとおぼえましょう。
表 1 |
主食の仲間 |
カボチャ、芋、とうもろこし、栗、はるさめ、ビーフン、くずきり、くわい、ゆり根、ぎんなん、グリーンピース、豆類、レンコン |
表 2 |
果物の仲間 |
すいか、レモン |
表 3 |
肉・魚の仲間 |
たらこ、数の子、いくら、くらげ、かまぼこ、油あげ、チーズ、ショルダーベーコン、豆乳、きなこ、枝豆 |
表 4 |
牛乳の仲間 |
ヨーグルト、エバミルク、スキムミルク |
表 5 |
油の仲間 |
クリームチーズ、バラ肉、サラミ、生クリーム、ピーナッツ、ドレッシング、ピーナッツバター、アボカド |
表 6 |
野菜の仲間 |
トマト、オクラ、さやいんげん、カリフラワー、竹の子、わらび、アスパラ缶 |
3. 家庭での注意点
1)計って食べる習慣をつけましょう。
表1から表6までを、バランス良く、1回の量を計って、食べる習慣をつけましょう。
2)色々な食品をとり混ぜて食べましょう。
1日に30種類の食品を食べる事が、体にとっても大切です。外食の時も、単品料理よリ、定食や幕の内弁当にして、野菜を中心にしたバランスの良い食事を心がけましょう。
3)和食を中心とした食生活が望ましいです。
洋食や中華料理は、隠れた油が多く、和食は素材を生かす調理法が多いので、単位の計算がしやすくわかりやすい料理です。量を覚えるまで、和食を中心とし、調味料のとり過ぎに注意してとってみましょう。
4)ゆっくりと食べて、満足感を味わいましょう。
量的には少なくても、ゆっくリと噛んで食べることは、満足感が出て胃にも体にも良いといえます。
5)インスタント食品のとり過ぎに注意しましょう。
インスタント食品は、炭水化物と塩分が多く、蛋白質と野菜が少ない傾向にあります。蛋白質と野菜を必ず補って下さい。
4. 食事の内容について
調理の工夫をすることで食生活を楽しみましょう。
1)薄味に慣れましょう。
副食の味付けを濃くすると、主食を多くとる原因になります。副食の味付けをする場合は、みりんや砂糖で煮物を作るより、お酒でうま味をひき出して、醤油で味をひきしめる調理方法や、香味野菜や柑橘類を上手に使った、薄味になれましょう。
2)油を上手に使いましょう。
同じように調理しても、食品によって吸油量が違います。揚げ物は油が多くなります。野菜は下ゆでしてから揚げたり、衣を少なめにしたり、包み揚げにして、油の量を少なくしましょう。又、揚げ物は中身より衣に多く油が含まれています。衣をはずして食べるようにしましょう。
3)満足感を味わう工夫をしましょう。
食物繊維の多い食品や、低カロリーの食品を使ってボリューム感を出してみましょう。海藻やきのこ、コンニャクは、食物繊維が多く、少々多めに食べても良い食品です。調味料には気をつけましょう。又、大皿に盛リ付けるよりも、小皿に盛り付けたほうが、量的にも多く見えて満足感を味わうことができるでしょう。また、水分も上手に利用しましょう。
5. 自己管理の仕方について
はかリ、計量スプーン、計量カップを用意しましょう。
1)自分の1日の単位と1食の単位を覚えましょう。
バランスを考えて一定の単位を決め、食生活を始めます。まずは、自分の1日の単位を覚えましょう。
2)表1?表6の仲間を覚えましょう。
表1?表6のそれぞれの仲間を、計りながら覚えていきましょう。よく使う食品をメモして持って歩いたり、貼り出しておくのも良いでしょう。
3)表1と表3は、特に大切です。
表1の主食の量と表3の主菜は、とり過ぎてしまいやすく、常に意識して食べる心がけが大切です。
4)自分用のノートを作りましょう。
いつまでも“だいたい”というのは、よくありません。最低一か月は、ノートをつけて一日の反省を夕食前に行う習慣をつけましょう。
5)献立を立てる時は、次のことに注意しましょう。
表3の主菜になる仲間を知り、量を計っておかずにしましょう。表1、表6は1日の単位の1/3ずつ使いましょう。
6. 糖尿病性腎症の食事について
糖尿病の合併症の一つに糖尿病性腎症がありますが、他の合併症と違い、腎臓病の場合は食事がかなり変化します。ここでは、その違いについてお話しします。
1)蛋白質(表3、表4)の制限
蛋白質には炭水化物、脂質と違い、老廃物の元となるものが含まれます。腎臓では血中の老廃物を濾過して体の外に捨てていますから、蛋白質をとりすぎると老廃物も増え、腎臓に負担がかかってしまいますので制限が必要になります。
2)カロリーの補充
体が必要とするカロリーは変わりませんので、蛋白質を制限する分、炭水化物と脂質で補充しなければなりません。カロリーが不足すると、筋肉などに含まれる蛋白質を壊すことで生まれるカロリーで補充しようとしますから、せっかく食事で蛋白質を制限して老廃物を減らしても、蛋白質が壊れることで老廃物は増えてしまいます。糖尿病食のなかでは炭水化物と脂質はとり過ぎに注意しなければなりませんでしたが、ここでは逆に積極的に摂らねばならなくなります。
3)塩分の制限
塩分は水と一緒に吸収されますが腎臓の働きが弱っているとむくみの原因になります。
また、塩分をとりすぎると血圧が上昇し腎機能を更に悪くします。血圧の管理という面でも塩分制限は大切です。味付けは薄味にしましょう。
運動療法は食事療法とともに糖尿病治療の基本になるものですので、特別の場合以外は薬剤を使用していても必ず行うように勧めて下さい。運動療法は食事療法とともに糖尿病にとって意外に大きな効果がある治療法です。
1. 運動は“療法”でなくて“生活の改善”です。
運動すると筋肉はインスリンなしでも糖を消費します。その効果は運動している間ばかりでなく、その後も続きますが数日休むと無くなりますので、持続的に続けなければ意味がありません。したがって、生活の中に運動を取り込み、毎日実行出来るような運動法を考えて下さい。運動療法も食事療法と同じ様に“治療”ではなく“生活の改善”による治療なのです。
まず、自分が毎日の生活の中でどの位運動しているのかを考えてみましょう。最近では仕事で体を動かす機会が減り、運動量が軽い仕事が多くなっていますし、車や電話で用事を足しまので、仕事中に運動する量が少なくなっています。運動というとスポーツを考えますが、特別にスポーツをしなければならないわけではありません。週に一回しか出来ないならばスポーツよりは毎日出来る生活の中の運動の方が勝っています。
2. 体重を減らしたり、過食を解消するために運動療法を行うのではありません。
運動は、たしかにカロリーを消費しますが、その量は考えるほど多いものではありません。“治療の手引き”には色々な運動をした場合、安静にしていた場合に比べどの位、カロリーを余計消費するか載っていますが、消費するカロリーは運動量に運動時間を掛けたものですから、長時間続けられない強い運動が、比較的軽い長時間の運動より消費するカロリーが少ない場合があります。糖尿病患者さんで減量を必要とする方が少なくありませんが、減量する時にも、食事療法とともに運動をお勧めするのは、食事制限だけで減量すると、脂肪組織ばかりでなく、筋肉組織も減ってしまいますので、運動で刺激を与えて、筋肉が減らないようにするためなのです。
3. 適切な運動の量は患者さんごとに異なります。
どのような糖尿病でも糖尿病自身には運動療法は有効です。しかし、糖尿病の患者さんが他の病気や合併症を持っている場合には運動が他の面ではマイナスに働く場合があります。このような場合には運動を行わないとか、軽い運動に止めておいた方が全体としては良い場合があります。かならず、運動の量の具体的な指示を受けましょう。薬と同じく運動も“処方”してもらいましょう。また運動の効果や副作用は最初から予測出来ない場合がありますので、最初は軽い運動から始めて、その効果や影響を調べてもらいながら次第に予定の運動量まで増やしてゆきます。運動の強さを正確に測定するのはかなり難しいのですが、自分にとってどの位の強さかは、脈拍数の増加で大体見当がつきます。(ただし、年齢によって脈拍の増加率は異なります。)歩行で運動をする場合には、万歩計が目安になりますが、同じ歩数でも運動量は人により異なりますので、絶対的なものではありません。
4. 薬を使っている時には運動をする時間にも注意を。
運動している間は特に血糖が下がる傾向があります。従って、食事療法だけの時には食後に運動するのが効果的ですが、薬を使用している時には、その効果が強い時に運動すると、血糖が下がり過ぎることがあります。とくに、足や腕などにインスリン注射をしている時には運動すると吸収が速くなり、低血糖が起こることがありますので、運動する時間も指示を受けて下さい。
毎日できる運動を考えましょう。
1. 運動する時に注意すること
運動は、ただたくさんすれば良いというものでもありません。安全が第一です。血糖が高すぎる人、高血圧、心臓病、重症の合併症のある人などは、運動が逆効果となることがあるので、事前に医師に相談をしましょう。また、運動は、血糖の高くなる食後1時間位から始めるのが良いでしょう。特に、経口血糖降下薬やインスリンを使用している場合には、空腹時の運動は低血糖の原因になることがあります。入浴も運動のひとつとなるので、なるべく食後に入るようにしましょう。運動の進めかたとして、準備運動、整理体操を行い、軽い運動から次第に強くしていきます。休養や睡眠を十分にとり、体調の悪い時は、無理せず休みましょう。
服や靴は運動しやすいものを選び、靴ずれを予防するために厚手の木綿の靴下を用意して下さい。経口血糖降下薬やインスリンを使用している人は、運動の時にブドウ糖、糖尿病手帳の携帯を忘れないようにしましょう。
2. どの位の強さの運動がよいでしょう
自分で簡単に運動の強さを知るには、脈拍数を測る方法があります。
左手首の内側のピクピクしている動脈に右手の3本指(ひとさし指、中指、くすり指)をのせて15秒間脈拍を測る。これを4倍すると1分間の脈拍数が出る。(左手で右の脈をとってもかまわない)。
他に運動のめやすの出し方として、1回の消費カロリー80Kcal(1単位分)の運動を、1日3回食後に行う方法です。 週1回のテニスやゴルフ、水泳などは、レクリエーションであり、運動療法とはいえないでしょう。毎日、手軽に続けられる方法に「速歩」があります。
3. 速歩のすすめ
ウォーミングアッブから、少しずつ無理なく進めていく方法をとりましょう。運動に慣れてきたら、少し汗ばむ程度の強さ(脈拍に注意)で、足を伸ばし歩幅を広くして歩きます。目標は、1回20〜30分間/1日2〜3回です。
4. その他
インスリン注射や経口血糖降下薬を内服をしている人は、低血糖予防のため食前は避け、食後30分?1時間以降に行います。また、合併症のある人は前もって医師に相談しましょう。準構運動、整理体操を行い、軽い運動から次第に強くしていきましょう。休養や睡眠を十分にとり、体調の悪い時は、無理せず休みましょう。いつもより激しいスポーツ等をする時は、前もって医師に相談しましょう。服や靴は、運動しやすいものを選びましょう。運動時は、ブドウ糖や糖尿病手帳の携帯を忘れないようにしましょう。
血糖を下げるために使う薬は経口血糖降下薬(飲み薬)と注射(インスリン、GLP-1受容体作動薬)があります。
a) スルホニル尿素薬(SU薬)
b) 速効型インスリン分泌促進薬
c) ビグアナイド薬(BG薬)
d) α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI薬)
e) チアゾリジン薬(インスリン抵抗性改善薬)
f) ジペプチジルペプチダーゼ−4(DPP−W)阻害薬
g) 配合薬(チアゾリジン薬とビグアナイド薬)
それぞれ特徴があり、糖尿病の状態にあわせて適切な薬が処方されます。薬の名前やどのような効き目なのかをよく理解することが大切です。薬の種類によって注意点が異なりますので以下のポイントをしっかりおさえておくようにしましょう。
1)低血糖を起す可能性のある薬かどうか
スルホニル尿素薬(SU薬)と速効型インスリン分泌促進薬はそれだけで低血糖を起こす可能性があります。シックデイや仕事が多忙で食事が摂れないときや食事量が少ないときには、普段より低血糖を起しやすくなるため、特に注意が必要です。これらの薬を飲んでいる方は低血糖症状や、低血糖のときの対処法を十分理解しておく必要があります。
2)薬を飲むタイミングに注意する
α-グルコシダーゼ阻害薬と速効型インスリン分泌促進薬は食事のすぐ前に飲む薬です。これらの薬は食後の血糖の上がりを抑えることを目的としているため、食事のすぐ前に飲むことになります。そのため食事が摂れないときには原則飲まないことになります。ほかの薬についても薬ごとに食後に飲むのか食前に飲むのかなどは説明されますので、よく覚えておく必要があります。
3)それぞれの副作用に注意し、副作用が出たら連絡する
必ずではありませんが薬を飲むと副作用の起こることがあります。副作用には以下の各薬剤の注意事項にあるように、薬によって特有なものがありますので、普段から主治医の先生とよく話し合っておきましょう。ただし副作用が現れても一時的な場合もあり、効果のためにはやむをえないこともあります。副作用も軽症から重症までさまざまなものがあります。大切なことは副作用が現れたらすぐ中止するのではなく、すぐ病院に連絡をしてその後の対処を相談することです。
a)スルホニル尿素薬(SU薬)
膵臓に働いて、インスリンの分泌をうながすことにより血糖を下げます。これらはインスリンの飲み薬ではありません。
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
ブタマイド(500mg) |
6〜12 |
250〜1000 |
グリミクロン(20mg 40mg) |
6〜24 |
20〜160 |
オイグルコン(1.25mg 2.5mg) |
6〜24 |
1.25〜10 |
アマリール(0.5mg 1mg 3mg) |
10〜12 |
1〜6 |
<適応>
膵臓にまだインスリンをつくる力はあるが、十分にインスリンがでていない人。
<薬を飲む時の注意事項>
*低血糖に注意してください。
*食欲亢進や体重増加(食事療法が守られないとき)がおこる ことがあります。
*飲み忘れた場合、2回分をまとめて飲むことはやめてください。
b)速効型インスリン分泌促進薬
膵臓に働いて、インスリンの分泌をうながすことにより血糖を下げます。効き目が早く、効いている時間が短いという特徴のため、食後の高血糖を改善する薬として使われます。
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
ファスティック(30mg 90mg) |
0.25〜3 |
270〜360 |
グルファスト(5mg 10mg) |
0.15〜2 |
30 |
<適応>
膵臓にインスリンをつくる力のある人で食後の高血糖がみられる人。
<薬を飲む時の注意事項>
*食事を始める前5〜10分以内に飲んでください。薬を飲んだ後、食事を始めるまで時間がかかると(15〜30分以上)低血糖を おこす可能性があります。
*飲み忘れた場合、2回分をまとめて飲むことはやめてください。
c)ビグアナイド薬(BG薬)
血中のブドウ糖を体の細胞の中に押し込む作用や肝臓で過剰にブドウ糖がつくられるのを抑える働き、腸からのブドウ糖の吸収を遅らせることにより血糖を下げます。
代表的な薬剤名/作用時間(時間)/1日投与量(mg)メデット(250mg)/6?14/500?750
メトグルコ(250mg)/6?14/500?2250
<適応>
膵臓にインスリンをつくる力のある人で肥満・過体重の人、インスリンの効きが悪い人。
<薬を飲む時の注意事項>
*胃部不快感、腹痛、下痢などの消化器症状や、まれに意識 障害(乳酸アシドーシス)がおこることがあります。
*飲み忘れた場合、2回分をまとめて飲むことはやめてください。
d)α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI薬)
食べた糖質の吸収を遅らせて食後の急激な血糖上昇を抑えます。インスリンの分泌をうながす働きはありません。
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
グルコバイ(50mg 100mg) |
2〜3 |
150〜300 |
ベイスン(0.2mg 0.3mg) |
2〜3 |
0.6〜0.9 |
セイブル(25mg 50mg 75mg) |
2〜3 |
120〜225 |
<適応>
空腹時に血糖がそれほど高くなく、食後に高血糖になる人。
<薬を飲む時の注意事項>
*食後に飲むと効果がありませんので、必ず食事を始める前 5〜10分以内に飲んでください。
*このお薬だけを飲んでいる場合には低血糖の心配はほとんど ありませんが、インスリン注射、他の経口血糖降下薬を併用 している方は低血糖に注意してください。
*低血糖がおこった場合、角砂糖やキャンディなどを摂取して も効果はありません。必ず、ブドウ糖を摂取してください。
*腹部膨満感、放屁(オナラ)の増加、まれに肝障害がおこる ことがあります。
*飲み忘れた場合、2回分をまとめて飲むことはやめてください。
e)チアゾリジン薬(インスリン抵抗性改善薬)
インスリンの効きを良くすることによって血糖を下げます。
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
ア ク ト ス(15mg 30mg) |
24〜36 |
15〜45 |
<適応>
膵臓からインスリンがある程度出ているのに血糖の高い、インスリンが十分働いていない人。
<薬を飲む時の注意事項>
*このお薬だけを飲んでいる場合には低血糖の心配はほとんどありませんが、インスリン注射、他の経口血糖降下薬を併用している方は低血糖に注意してください。
*むくみ、体重増加、貧血、まれに重症の肝障害がおこることがあります。
*この薬を飲んでいる人は月1回の肝機能検査が必要です。
*飲み忘れた場合は思い出した時にすぐ飲んでください。ただし、 次に飲む時間が近い時には忘れた分は飲まないでください。
f)ジペプチジルペプチダーゼ−4(DPP−W)阻害薬
膵臓からのインスリンの分泌をうながす物質(インクレチン)の働きを強めて血糖を下げます。血糖値の高いときのみ働くため、低血糖になることが少ないとされています。また、グルカゴンの分泌を抑える働きもあります。
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
ラクティブ(25mg 50mg 100mg) |
24 |
25〜100 |
エクア(50mg) |
12〜24 |
50〜100 |
ネシーナ(6.25mg 12.5mg 25mg) |
24 |
25 |
<適応>
膵臓にまだインスリンをつくる力はあるが、何らかの理由で血糖の高い人。
<薬を飲む時の注意事項>
*他の経口血糖降下薬(特にアマリールやオイグルコンなどの SU薬)を併用している方は低血糖に注意してください。
*飲み忘れた場合は思い出した時にすぐ飲んでください。ただし、 次に飲む時間が近い時には忘れた分は飲まないでください。
g) 配合薬(チアゾリジン薬とビグアナイド薬)
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
メタクト配合錠LD |
- |
15/500 |
メタクト配合錠HD |
- |
30/500 |
<適応>
チアゾリジン薬とビグアナイド薬の併用することが適切とされる場合。
<薬を飲む時の注意事項>
*胃部不快感、腹痛、下痢などの消化器症状や、まれに意識障害(乳酸アシドーシス)がおこることがあります。
*むくみ、体重増加、貧血、まれに重症の肝障害がおこることがあります。
*この薬を飲んでいる人は月1回の肝機能検査が必要です。
*飲み忘れた場合、2回分をまとめて飲むことはやめてください。
1-1.インスリン注射とは
インスリンは血糖を下げる働きを持つホルモンで通常、血糖値が上昇するときに膵臓から分泌されます。糖尿病になると、血糖値を下げるために必要な量のインスリンが膵臓から分泌されなくなったり、分泌されていても、その効き目が悪くなったりします。インスリンが膵臓から分泌されなくなった場合、現在のところ注射以外の手段はまだありませんので注射を使用することになります。
1-2.インスリン療法の意義
インスリン療法は、糖尿病の薬物療法のひとつで食事療法、運動療法と組み合わせることにより、インスリンの作用不足を解消します。不足するインスリンを外から補うことで、健康者の血糖値にできるだけ近づけることができ、健康者と変わらない状態で日常生活を送り、合併症の予防ができます。インスリン療法には2つの場合があります。一つは長期にインスリン療法を行う場合、もう一つは一時的にインスリン療法を行う場合です。
*インスリン療法を長期に行う場合
@1型糖尿病
1型糖尿病の人は膵臓でインスリンがほとんど作られないので、インスリン療法がおそらく生涯にわたって必要です。緩徐進行1型糖尿病の初期ではインスリンがまだ作られているのでインスリン療法が不可欠ではありませんが、進行の予防のためインスリン療法を行う場合もあります。これも継続して長期に行う必要があります。
A2型糖尿病
はじめのうちはまだインスリンを分泌する力がある人が多く、飲み薬も有効です。薬を飲んでいても、徐々にインスリンを分泌する力が弱くなり、薬の効き目の悪くなることがあります。これを2次無効といい、この場合インスリン療法が必要です。2次無効のなり方にもよりますが、血糖値が下がってもインスリン療法を中止すると増悪することが多いので、多くの場合長期にインスリン療法を行う必要があります。
*一時的にインスリン療法を行う場合
普段は食事療法のみ、あるいは飲み薬で十分治療されている2型糖尿病の人でもシックデイでケトーシスや高血糖を起こしたとき、重い感染症になったとき、大ケガや大手術を受けるとき、あるいは他の病気のために血糖が上がる副作用を持つ薬を飲むときなど、一時的にインスリン療法が必要となってきます。これらの場合、血糖値が下がるとインスリンを中止できる場合が多いので、躊躇なくインスリン療法を行うことが大切です。
インスリン療法を行うときには、インスリン療法が一時的なのか長期に行っていくべきものなのかを主治医の先生とよく話し合っておきましょう。
1-3.最近のインスリン療法の特徴
以前は飲み薬からインスリン療法に変更する場合、飲み薬を中止して行う場合が多かったですが、最近では飲み薬を継続したままインスリン療法を追加する場合が多くなりました。
1-4.インスリン注射の実際
インスリン製剤や注入器、方法、注射量などは主治医がその方の病状に合わせてきめ細かく判断し指導します。注射の回数は1日1回の場合もありますし、健康者により近い血糖値を保つために1日2?4回に分けて注射することや、何種類かのインスリン製剤を併用する場合、インスリンポンプなどを使用することもあります。
●インスリン製剤の種類と作用時間
以前はヒトのインスリンと同じ構造を持つヒトインスリンが主役でしたが、現在では一部構造を変えて早い効き目や長く安定した効き目を持つインスリンアナログと呼ばれる製剤がより多く使われています。自分の使用しているインスリンがどのようなものなのかを知っておくようにしましょう。
分類 |
インスリン名 |
作用発現時間 |
最大作用時間 |
作用持続時間 |
外観 |
|
インスリンアナログ |
超速効型 |
ノボラピッド注 |
10-20 分 |
1-3 時間 |
3−5時間 |
澄明 |
ヒューマログ注 |
15分以内 |
0.5−1.5時間 |
3−5時間 |
|||
アピドラ注 |
15分以内 |
0.5−1.5時間 |
3−5時間 |
|||
二相性中間型 |
ノボラピッド30ミックス注 |
10-20 分 |
1−4時間 |
約24時間 |
懸濁 |
|
ノボラピッド50ミックス注 |
||||||
ノボラピッド70ミックス注 |
||||||
ヒューマログミックス25注 |
15分以内 |
0.5−6時間 |
18−24時間 |
|||
ヒューマログミックス50注 |
15分以内 |
0.5−4時間 |
18−24時間 |
|||
中間型 |
ヒューマログN注 |
0.5-1 時間 |
2-6時間 |
18-24時間 |
||
持効型 |
ランタス注 |
1-2 時間 |
なし |
23−24時間 |
澄明 |
|
レベミル注 |
約1時間 |
3−14時間 |
約24時間 |
|||
ヒトインスリン |
速効型 |
ノボリンR注、イノレットR注 |
約0.5時間 |
1−3時間 |
約8時間 |
|
ヒューマリンR注 |
0.5−1時間 |
1−3時間 |
5−7時間 |
|||
混合型 |
ノボリン30R-50R注、イノレット30R-50R注 |
約0.5時間 |
2−8時間 |
約24時間 |
懸濁 |
|
ヒューマリン3/7注 |
0.5−1時間 |
2-12時間 |
18-24時間 |
|||
中間型 |
ノボリンN注、イノレットN注 |
約1.5 時間 |
4-12時間 |
約24時間 |
||
ヒューマリンN注 |
1-3 時間 |
8-10時間 |
18-24時間 |
●インスリン注入器の種類
・ペン(万年筆)型(:カートリッジ交換型)
ノボペン、ヒューマペン、オプチクリック、イタンゴ
・使い捨て型(:注射液と注射器の一体型)
フレックスペン、イノレット、ヒューマリンキット、ミリオペン、ソロスター
・インスリンポンプ
・ インスリン専用注射器
2)GLP-1受容体作動薬
2-1.GLP-1とは
GLP-1はインクレチンと呼ばれるホルモンの一つで、食事によって小腸より分泌されます。血糖の高いときのみインスリンの分泌を増やしたり、グルカゴンの分泌や、食欲を抑えたりする働きなど多くの作用をもっています。
2-2.GLP-1作動薬の実際
GLP-1作動薬は膵臓からのインスリン分泌の量を増やす働きのため、2型糖尿病の方に使用する注射薬です。下痢や嘔気などの胃腸障害が初めに起こることが多いため、少ない量より注射を開始し、量を増やしていきます。
● GLP-1作動薬の種類と作用時間
代表的な薬剤名 |
作用時間(時間) |
1日投与量(mg) |
ビクトーザ皮下注 |
24以上 |
0.9 |
3)注射使用時の注意点
*注射部位
最も望ましいのは、おなか(腹壁)ですが、おなかに打つことができない人は大腿外側部、上腕外側部、殿部・上腕外側部などに打つ場合もあります。おなか以外の場合はおなかとは効きはじめる速さが違うので、おなかに打てない場合は主治医とよく相談することが必要です。同じ部位の中でも注射の場所は毎回少しずつずらして(2cm間隔)注射します。(同じ場所に注射し続けると皮下結節がつくられ、この部分への注射は効きが不安定になります。)また、懸濁しているインスリンを使用している場合には注射前によく混ぜる必要があります。
*注射時間
食前20〜30分に注射するものや食直前に注射するものがあります。また食事に関係なく決まった時間に注射するものもあります。注射時間を守らないと低血糖が起こることや、効き目に偏りができることがありますので注意してください。
*保存方法
現在使用している注射は常温保存し、予備の注射は凍結をさけて冷蔵庫に保存してください。火や暖房器具、直射日光の当たる場所、車の中などには置かないでください。
*針について
針は毎回新しいものを使用します。また、使用した針は針先が外に出ないようなフタのできる容器に入れ、病院へ持ってきて処分してください。札幌市では注射や血糖自己測定の針は家庭ゴミには出せないことになっています。また、家庭ゴミと一緒に捨てると針が刺さったりする事故につながります。
11 糖尿病の合併症薬
血糖値を下げる治療に加えて、さまざまな合併症に対してもお薬が使われています。
1. 細い血管の障害(糖尿病三大合併症)
1)糖尿病性網膜症
目の網膜の細い血管が詰まることや、出血しやすくなることを防ぐ薬を使うことがあります。
*血管を強くする薬 : アドナなど
*網膜の血液の流れを良くする薬 : カリクロモンなど
2)糖尿病性腎症
*血圧降下薬
血圧が高い状態が続くと腎症が進行しやすくなるので血圧の高いときには血圧を下げる薬を使います。血圧 を下げる薬の種類はカルシウム拮抗薬をはじめとして多くありますが、その中でもアンジオテンシン変換酵 素阻害(ACE)薬や、アンジオテンシンU受容体拮抗(ARB)薬は血圧を下げる働きのほかに、腎症の進行を おさえる働きもある薬です。
カルシウム拮抗薬 : アダラート、ノルバスク、カルブロックなど
ACE阻害薬 : エースコール、タナトリルなど
ARB薬 : ディオバン、オルメテック、ミカルディスなど
*利尿薬
腎臓の働きが悪くなることで尿の量が減ると体の中の水の量が増え、血圧が高くなることや、心不全などを起こすこともあります。そのため尿の量を増やす薬を使うことがあります。
→ラシックス、アルダクトンA、フルイトランなど
*抗血小板薬
腎症になると腎臓での血小板の働きが強まることで、血液の流れが悪くなって腎症を悪化させることがあります。そのため血小板の働きを弱くする薬を使うことがあります。また、これらの薬は尿蛋白の量を少なくする働きもあります。
→ペルサンチンなど
*球形吸着炭
腎臓の働きが悪くなると体のなかに老廃物や尿毒素がたまり、全身倦怠感や頭重感などの症状がでてきます。そのため老廃物や尿毒素を腸内でつけて体の外に出す薬を使うことがあります。このお薬は炭(活性炭)で出来ています。
→クレメジンなど
*血清カリウム抑制薬
腎臓の働きが悪くなると血液中のカリウムの値が高くなることがあります。カリウムが高い状態が続くと嘔吐や脱力感、重症の不整脈が起こることがあります。そのために値を下げる薬を使うことがあります。
→アーガメイトゼリー、カリメートなど
3)糖尿病性神経障害
足先のしびれや痛みなどの感覚・運動障害が多く見られますが、そのほかに立ち上がったときに低血圧を起こすこと(起立性低血圧)や、下痢や便秘など胃腸の働きが悪くなること(糖尿病胃腸症)、残尿感や排尿障害などの過活動膀胱、勃起障害などの自律神経障害も起こることがあり、症状に合わせて薬を使用することがあります。
@感覚・運動障害
*アルドース還元酵素阻害薬
高血糖の状態が続くとソルビトールという物質が増えて細胞が水ぶくれの状態になります。そのことによっ て神経の働きや再生に障害がおきて痺れや痛みなどが現れるといわれています。この薬は原因となっている ソルビトールがつくられるのを抑える働きがあります。
→キネダックなど
*ビタミンB12
ビタミンB12は障害を受けた神経を修復する働きがあります。
→メチコバールなど
そのほかに、痛みを抑える働きの薬や、神経へ栄養を送る細い血管の血液の流れが悪くなっていることがあ るので血管を広げて流れを良くする薬を使うこともあります。
*痛みを抑える薬
→メキシチール、トリプタノール、テグレトールなど
*血管を広げる薬
→ドルナー、パルクスなど
A自立神経障害
*起立性低血圧
・ 血圧を高くする薬 : メトリジン、リズミック、ドプスなど
*糖尿病胃腸症
・ 胃腸の働きを調節する薬 : ナウゼリン、ガスモチン、ガナトン、ガスコンなど
・ 下痢を止める薬 : ロペミンなど
・ 便秘を改善する薬 : センナリドやピムロ顆粒、酸化マグネシウムなどの緩下剤
・ 整腸薬 : ビオフェルミンなど
*過活動膀胱
・ 膀胱の働きを改善する薬 : ウブレチド、ハルナールD、ステーブラなど
*勃起障害
・ バイアグラ、レビトラ、シアリス
2.太い血管の障害(動脈硬化)
太い血管の内側の壁が厚くなることで血管が硬く、細くなり、血液の流れが悪くなることや、血栓ができて 血液の流れが止まったりします。その結果、脳梗塞や心筋梗塞、下肢の血管が細くなり詰まってしまう閉塞 性動脈硬化症などが起こることがあります。そのため血管を広げる薬や血栓ができないようにする薬を使う ことがあります。
*血栓ができないようにする薬 :バイアスピリン、プレタール、ニチステート、ユベラなど
*血管を広げる薬 :アンプラーグ、ドルナー、パルクス、エパデールなど
また、高血圧や脂質異常(血液中のコレステロールや中性脂肪の高い状態)も動脈硬化を進める原因となり ますので、血圧や脂質の値を下げるために薬を使うことがあります。
2 足の手入れ(フットケア)について
糖尿病の人は、神経障害による知覚低下や動脈硬化による血流障害を起こしやすく、細菌の感染に対して抵抗力も低下しています。その中でも、足は小さな傷や火傷に気づかないまま放置しておくと感染して化膿したり潰瘍になってしまい、さらに進行すると壊疽をおこし最悪の場合は切断という事になります。そうならないためには、足の観察、早期発見、早期治療が大切です。
1. 足の観察
毎日、足全体をみる習慣をつけましょう。足の底は鏡を使うと便利です。
〈観察のポイント〉
@皮膚の色や足の形が変わっていないか
A爪の色や形が変わっていないか
B靴ずれ、傷ができていないか
C魚の目、たこ、水虫ができていないか
D乾燥してひび割れができていないか
2. 入浴、足浴の方法
ぬるめの湯(40度位)で刺激の少ない石鹸を使いましょう。軽石やブラシを使ったり、強くこすらないで指の間はていねいに洗いましょう。タオルで拭く時も強くこすらないようにして水分をよく拭きとりましょう。洗った後は、ひび割れや乾燥には保湿クリームを塗布しましょう。
3. 爪の手入れ
伸びた爪は、ひっかけて剥がれたり傷つけたりします。こまめに手入れしましょう。爪切りを使用する時は、皮膚を傷つけたり深爪にならないように注意しましょう。
4. 靴と靴下の選び方
靴は、足に合ったものを選びましょう。つま先がゆったりとして底のクッションが効いて縫い目の少ないものがよいでしょう。新しい靴は徐々に慣らしていき十分履き慣れたところで長い時間歩くようにしましょう。足の感覚の鈍い人は、つま先のあいているサンダルやイボイボサンダルは避けたほうがよいです。また、履く前に何も異物が入っていないか確認する事も忘れないようにしましょう。
靴下は、自分の足をケガから守るため必ず履きましょう。材質は綿かウールが適していますが、通気性、保湿性、吸湿性のよいものを選びましょう。ゴムがきつかったりサイズがあっていない靴下で足を締め付けたりしないように足にあったものにしましょう。
糖尿病の人が他の病気になって具合が悪いときのことをシックデイといいます。風邪をひいて熱を出したり、下痢をして食べられなくなったり吐き気、嘔吐など突然体調を崩すことがあります。
このような場合は、血糖が乱れがちなため対応の仕方を知っておくことが大切です。対応が遅れたり誤まった自己治療をすると、場合によって危険な状態になることがあります。まずは自分の体調や状態を知っておきましょう。
1. 体調のチェックポイント
@水分・食事がきちんと、とれていますか?
Aどんな症状ですか?
B自己測定をしている方、血糖値はどうですか?
普段との体調の違いを見つけましょう。
2. シックデイの時の対応法
・まずは原因となった病気の治療です。
風邪ならば無理をせず休養をとるといったことですが原 因となった病気を診断するために早いうちに診察を受けるのがよいでしょう。
・血糖コントロールが乱れがちになります。いつもより血糖自己測定の回数を多くしましょう。
・いつものインスリン注射、内服薬服用に不安がある時は勝手に止めず医師や看護師に相談して下さい。特にインスリン注射をしている人は食べられないからといって中止してしまうのは危険です。
・食事を工夫して、できるだけふだんと同じくらいのカロリーを摂取し水分も多めにとるよう心がけましょう。
・外出時は糖尿病手帳、自己血糖測定器、ブドウ糖を携帯しましょう。
*大切なことは、早め早めの受診を心がけることです。
その他
やむをえず市販の薬を購入する場合は糖尿病であることを申し出て購入してください。
1. 糖尿病による眼合併症
糖尿病による眼への影響にはさまざまなものがあります。白内障(視力低下が生じます)・眼筋麻痺(物が二つになってみえます)・虹彩炎(充血、眼痛、視力低下がみられます)などがありますが一番恐ろしいのは糖尿病網膜症です。糖尿病の3大合併症の一つである網膜症は進行・悪化すると失明する恐ろしい合併症であり、いまだに日本では中途失明原因の第一位です。網膜というのは眼球の奥にある神経の膜で、ここには多くの血管が走っています。糖尿病ではこの血管が腫れたり詰まったりし、そのために血管で養われている網膜が障害を受けるのです。糖尿病網膜症には単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症(放置すれば失明します)、さらに黄斑症があります。黄斑症というのは網膜の中心を黄斑部といいますがこの部分は最も視力に関わる重要なところで、特にこの障害が強いものをいいます。また網膜症が進行していても黄斑部が侵されていなければ視力がよいこともあります。ですからたとえ視力が良好でも眼科医による定期的な眼底チェックが必要なのです。糖尿病網膜症を引き起こす2大要因は糖尿病罹病期間と糖尿病コントロール状況です。糖尿病コントロールが良ければ網膜症は出にくいし、進行をくいとめられることがわかっています。そして進行した網膜症の治療も黄斑症の治療も困難です。ですから網膜症がおこらないように厳重な糖尿病コントロールが望まれます。
2. 糖尿病性腎症
糖尿病の重要な合併症のひとつに「糖尿病性腎症」があります。ここではまず腎臓のはたらきについて簡単に説明してから、腎臓をおかす糖尿病性腎症について説明します。
1)腎臓のはたらき仕組み
わたしたちの腎臓は、そら豆を大きくしたようなかたちで、腰の部分の背中寄りに左右1個づつ2個あります。腎臓は24時間休みなく次のような仕事をして、わたしたちのからだを健康に保つため働いています。
@新陳代謝によって作られたり、食事で食べたりしたもののなかで、からだにとって要らなくなった老廃物を尿に溶か し込んで排泄する。
A身体の水分や塩分が一定になるように、尿の量や濃さを調節する。
B血圧を調節する。
Cホルモンを作り、赤血球の量やカルシウムの量を調節する。
腎臓に入った血管は細かく枝分かれして、最終的に直径約0.1mmの「糸球体」という毛細血管の束になります。糸球体は1個の腎臓に約100万個あります。血液に含まれる老廃物は、この糸球体で濾過されて尿になります。尿は糸球体に続く「尿細管」という細い管を通る間に水分や塩分の調節を受けて、最後に膀胱・尿道から排泄されます。
2)糖尿病性腎症の原因
まだ充分解明されていない点もありますが、現在のところ糖尿病性腎症の原因はおおむね次のように考えられています。糖尿病のために血糖が高い状態が続くと、腎臓、なかでも糸球体を作っている物質がくっついてしまい、糸球体のはたらきが障害されてきます。そのため、本来は老廃物のみが濾過されるのですが、身体にとって必要な蛋白質なども濾過されてしまうようになってしまい、尿に蛋白が出るようになります。さらに病状が進行すると、糸球体がつぶれてしまい、老廃物の濾過が行われなくなり、身体に老廃物や水分が貯ってきてしまいます。また、糖尿病に合併しやすい高血圧や高コレステロール血症なども、動脈硬化を進行させ糖尿病性腎症を悪化させる原因となります。
3)糖尿病性腎症の症状
糖尿病性腎症の初期には、尿に蛋白が出るだけですので、いわゆる「痛い・痒い」などの自覚症状はありません。しかしこの時期に治療を始めることが、糖尿病性腎症を悪化させないためにたいせつなことです。最近は「微量アルブミン尿検査法」によって、ごく少量の蛋白尿を見つけ出せますので、糖尿病性腎症を早く発見することができるようになりました。定期的に尿検査を受けることにより、早いうちに糖尿病性腎症を発見し、治療することができます。糖尿病性腎症が進んでくると、尿に大量の蛋白が出るようになり、血液中の蛋白質が減ってきてネフローゼ症候群といわれる状態になり、むくみや疲れやすいなどの症状が出始めます。この時期には尿検査だけでなく、血液検査にも異常がみられてきます。さらに病状が進み、からだに老廃物が貯まってくると、腎不全・尿毒症という状態になり、食欲の低下、強い疲労感、むくみがさらにひどくなるなど色々な症状が出現します。
4)糖尿病性腎症の治療
最もたいせつなのは、運動療法・食事療法・経口血糖降下薬・インスリンなどを正しく用い、血糖のコントロールをきちんと行うことです。微量アルブミン尿の時期であれば、特に腎臓に対する治療をしなくとも、血糖コントロールを厳密に行うことで尿検査が正常に戻ることも多いものです。原因のところで述べたように、高血圧や高コレステロール血症があればその治療の必要があります。糖尿病性腎症の進行度合に応じて、抗血小板剤・ACE阻害薬・利尿薬・経口吸着薬など様々なくすりが使用されます。蛋白尿の増加している時期には運動療法は若干制限されます。また、食事療法もそれまでの糖尿病食に加えて、腎臓食(塩分蛋白制限)の適用も必要となります。からだに老廃物が貯まり、むくみが強くなる腎不全・尿毒症の時期には、老廃物や水分を取り除くために、血液透析やCAPD(腹膜透析)を行います。糖尿病性腎症が悪化し透析治療をうけなければならなくなった人の数は、日本で年間1万人を超え、年々増加しています。腎臓が悪くなる病気は糖尿病以外にもたくさんありますが、人数は糖尿病が第一位なのです。定期的に診察・検査を受け、血糖のコントロールを正しく行うことが、糖尿病性腎症を防ぐことにつながります。またそれが、万一糖尿病性腎症が発病した場合にも早期に発見し、適切な治療を受けることを可能にします。
3. 糖尿病性神経障害
糖尿病性神経障害は、糖尿病の三大合併症の一つで、表1に示すように全身に多彩な症状をもたらします。糖尿病性網膜症、同腎症の進行が潜在的であるのに比べ、神経障害の症状は糖代謝異常の随伴症状といわれるほど早期に自覚されます。また、糖代謝異常を早期に是正すれば速やかに改善します。神経障害は、可逆的な面がありますが、進展すると神経組織の変性が不可逆的となり、二次的臓器障害を起こします。無症候性低血糖症、胃無力症(胃麻痺)による血糖コントロールの不安定化、膀胱障害による尿路感染症、起立性低血圧を誘因とする重篤な不整脈、無痛性心筋梗塞、壊疽の感染などをひきおこし、さまざまな致死的病態が完成することになります。糖尿病性神経障害を早期に発見し、糖尿病の自己管理を徹底することが進展防止策の鍵となります。
1.びまん性左右対称性神経障害(代謝異常が主因) |
a.多発性神経障害(感覚神経・運動神経の障害) |
異常感覚(しびれ感、ジンジン感、冷感など)、自発痛、神経痛、感覚鈍麻、こむらがえり |
b.自律神経障害 |
発汗異常(味覚性発汗、無汗)、起立性低血圧症、胃無力症、通便異常(便秘、下痢)、胆嚢無力症、膀胱 障害、勃起不全、無自覚性低血糖症など |
|
2.単一性神経障害(血管閉塞が主因) |
a.脳神経障害 |
外眼筋麻痺(動眼・滑車・外転神経麻痺など)顔面神経麻痺、聴神経麻痺など |
b. 幹・四肢の神経障害 |
尺骨神経麻痺、腓骨神経麻痺、 幹の単一性 神経障害 |
|
糖尿病性筋萎縮 |
||
3.そのほか |
治 療
現在、使用可能な治療薬を表2に示します。アルドース還元酵素阻害薬(ARI)はポリオール代謝亢進を抑制し、糖尿病性神経障害(ニューロパチー)の進展阻止が期待されます。SimaらはARIが神経再生を促進すると報告しています。プラセボとの二重盲検試験でも有効性が示唆されています。プロスタグランジンE1(PGE1)、シロスタゾールには微小循環改善効果があり、対症的にも冷感、しびれ感に有効性が期待されます。ビタミンB12とビタミンEは神経代謝改善薬として用いられます。
表2 糖尿病性ニューロパチーの主な治療薬
種 類 |
商品名 |
投与法(1日量) |
1.アルドース還元酵素阻害薬 2.リボプロスタグランジンE1 3.プロスタグランジンE1 4.抗血小板薬 5.ビタミンB12
6
ビタミンE |
キネダック パルクス オパルモン プレタール メチコバール
ユベラN細粒 |
経口 150mg 点滴静注 10μg 経口 30μg 経口 100〜200mg
経口 1,500μg
静注 500μg 経口 600mg |
錯感覚を伴う疼痛に対しては、皮膚を刺激しないような靴下や下着の着用を勧めます。温浴や歩行は軽症例で疼痛軽減効果があります。薬物療法としては一般の抗炎鎮痛薬の経口投与や坐薬、抗不安薬、PGE1などが用いられます。塩酸クロニジン(カタプレス)は灼熱痛様の痛みに対し、夜間投与が勧められます。カルバマゼピン(テグレトール)やクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)などの抗痙攣薬も神経痛に対し用いられます。最近、塩酸チアプリド(グラマリール)やメトクロプラミド(エリーテン、プリンペラン)の抗疼痛作用が注目されているほか、塩酸メキシレチン(メキシチール)有効の場合もあります。疼痛性ニューロパチーの多くはうつ状態を伴い、三環系あるいは四環系抗うつ薬は中枢性疼痛軽減作用もあり、就寝前の服用が効果的です。
糖尿病は血管の病気です。血糖の高い状態が続きますと、まず細い血管が侵されて糖尿病性の腎症、網膜症、神経障害といった糖尿病に特徴的な三大合併症が出てきます。また、細い血管ばかりでなく太い血管も侵されて動脈硬化が早く進みます。動脈硬化とは血管(動脈)の壁が硬く、もろくなり、血管が詰まりやすくなったり、破れやすくなることで、年をとると程度の差はあれ誰にでも起こってきます。
動脈硬化を進める危険因子には、糖尿病のほかにも高血圧、高脂血症(血液中のコレステロールや中性脂肪が高すぎること)、肥満、喫煙などがあります。糖尿病で血糖の高い状態が続きますと動脈硬化が早く進みます。動脈硬化を予防するためには、血糖のコントロ一ルだけでは十分でなく血圧の正常化、高脂血症の是正、体重の適正化、禁煙などを守り危険因子を一つずつ取り除くようにしなければなりません。糖尿病の方で比較的多くみられる動脈硬化による病気に脳卒中、心筋梗塞、足の壊疽があります。
1. 脳卒中
脳卒中には脳を養っている動脈が詰まって起こる脳血栓(脳梗塞)と、血管が破れて脳の中に出血する脳出血があります。糖尿病の方には脳血栓が多くみられます。初めに、手足に麻痺が起こったり、意識を失って倒れたり、言葉が出なくなったりします。脳卒中にならなくても脳を養っている血管に動脈硬化があると、頭が重い、怒りっぽい、物忘れがひどいなどの症状が現れます。脳動脈硬化の程度は、眼底検査、脳のCTスキャン、脳のMRIなどの検査である程度わかります。脳卒中で倒れますと、時に生命の危険があるだけでなく、麻痺が続きますと自分が不自由な生活を強いられるばかりでなく家族にも大変負担をかけることになります。日頃から動脈硬化の危険因子を取り除くように心がける必要があります。
2. 心筋梗塞
心臓は全身に血液を送っているポンプで筋肉(心筋)でできています。心筋梗塞は心筋を養っている動脈が詰まって起こります。心筋の一部に血液が通わなくなりますので、心臓の働きが著しく悪くなり、生命にかかわります。また、狭心症は心筋を養っている動脈が痙攣したリ、細くなったりして、一時的に心筋に十分な血液を送ることが出来なくなる状態です。狭心症は心筋梗塞の前ぶれとみることができます。
狭心症や心筋梗塞が起こると、胸がしめつけられるような痛みが普通ありますが、糖尿病の方の中にははっきりした症状がみられない方がいます。たまたま心電図をとって分かったり、息切れがし易い、冷や汗が出る、脈がとぎれるなどの症状で検査して初めて分かることがあります。心電図など定期的検査がどうしても必要です。
3. 足の壊疽
足に血液を送っている動脈に動脈硬化が起こると、歩いているうちに足やふくらはぎが痛くなり、しばらく休むと痛みが薄らぎまた歩けるといった特有な症状が出ることがあります。これを間欠性跛行と呼んでいます。足の動脈硬化がひどくなると足先の方から血管が詰まり、痛みとともに、壊死を起こしてきます。このような状態を壊疽といいます。動脈硬化による壊疽は痛みが激しいのが特徴です。糖尿病性神経障害による足の壊疽は動脈硬化による壊疽とは異なリ痛みをまったく感じないのが特徴です。しかし、糖尿病の方では動脈硬化と神経障害が組み合わさって足の壊疽を生ずることも少なくありません。足の動脈硬化の程度はドプラー血流計、サーモグラフィー、足のレントゲン写真さらには血管造影などで分かります。動脈硬化を予防するためにはその危険因子を取り除く努力を日頃から心がける必要があります。
お酒は必須栄養ではありませんが、人間の生活に深く浸透しています。しかし、糖尿病をかかえる方には血糖値を乱す厄介な存在です。お酒を飲んでよいかどうかは、糖尿病の病状や合併症の有無によっても異なり、一概には言えません。必ず主治医に相談してください。
1. お酒の種類によって、糖尿病に対する影響に差が あるでしょうか?
お酒は種類によりアルコール以外の成分を含んでいるものがあります。代表的なものは、カクテルや酎ハイ、梅酒などの果汁や砂糖が入っているものです。これらは、血糖を大きく上げる可能性があるので極力飲まないことが必要です。
さて、下記のようなお酒は種類によりアルコールの含量に差がありますので、おおよその濃度とカロリーを知っておいてください。
お酒の種類 |
アルコール濃度 |
1単位の目安(1単位=10g=71kcal) |
ウィスキー |
平均35% |
30ml(ウィスキーグラス1杯) |
日本酒 |
平均15% |
1/3合 |
ワイン |
平均11% |
75ml(ワイングラス1.3杯) |
ビール(銘柄により差があります |
3.5〜5.5% |
中瓶の1/3 |
2. お酒の効罪
大量の飲酒は糖尿病でなくても身体に悪いことは医学的に確実です。肝臓病、膵臓病、高血圧、通風、胃疾患、神経疾患などの原因となったり、悪化させたりします。大量の飲酒をしても酒酔い状態にならない方もみられますが、普通「お酒に強い」というのは「脳が麻痺しにくい」ことで肝臓などの内臓が強いということと間違えてはいけません。お酒に強い方は沢山飲まれることが多いので病気になりやすいのです。一方極く少量の飲酒は動脈硬化を抑制して、心筋梗塞を少なくするという報告もありますが、必ず主治医と相談しましょう。血糖コントロールが良好で合併症が軽度で肝臓病などがなく、自制心のある人に限り主治医が認めれば2単位以内の量で飲酒を認めることがあります。
3. お酒のカロリーは食品のカロリーと同じか?
アルコールは他の栄養素と同じくカロリーを持っていますが、身体の中での代謝の仕方は他の栄養素と全く違いますので、他の栄養素と交換することはできません。かつては、表1の食品と交換する方法を教えた時代がありますが、現在では行われません。また、「アルコールは体内でカロリーにならない」というのも誤りで、カロリーがあると考えて2単位以内の量にとどめてください。
4. 糖尿病の場合に特に注意するべき飲酒の問題
糖尿病の方の飲酒は普通の方と違う注意をしなければならないので必ず指示を受けてください。
@経口薬を服用している場合には種類により低血糖になっ たり、副作用が出やすくなったりすることがあります。
Aインスリン注射をしている場合には飲酒の時間によっては低血糖を起こしやすくなります。
B血中の中性脂肪の高くなりやすい人、血圧の高くなりやす い人、尿酸の高くなりやすい人が糖尿病では多いのですが、アルコールはこれらを助長します。
C合併症が重度の場合は悪影響がありますので、少量でも止めてください。
5. 結論として
血糖コントロールが良好で合併症が軽度で肝臓病などがなく、自制心のある人に限り主治医が認めれば2単位以内の量で飲酒を認めることがあります。お酒は少量であれば、気分がほぐれて精神的に治療に良い効果のある場合もあります。けれども、えてして限度を越えがちなのがお酒です。初めは少しと思っても、飲み始めると多くなりがちです。多くなれば当然色々な具合の悪いことが起こりますし、食事全体が乱れて食事療法がうまくいかない場合が出てきます。ですから、もし、少量で止める自信がなければ、最初から飲まないようにしましょう。
運動をすると主に次のような効果があります
インスリンの働きを良くする
『糖尿病の方には最も重要な血糖のコントロールがしやすくなります。』
体脂肪が減少する
『余分な体脂肪を減らすことは身体にかかる様々なストレスを軽減
してくれます。』
筋力をつける
『筋力が強くなると太りにくい体質に変わっていきます。また、運動
(例えばウォーキング)をつづけていく際にケガの予防になります。』
日常生活が楽になる
『体脂肪が減り、筋力が強くなると身体を動かすのが楽になってき
ます。また肩こりや腰痛などの予防や改善にもなり心身のリフ
レッシュにも効果的です。』
以上のように運動は身体に様々な良い影響をもたらします。かしながらこれらの効果は短時間で現われるものではりません。定期的に継続してこそ運動の効果は現われるものです。では実際にどのようなことに気をつけて運動をしてゆけば安全で効果的なものになるかご紹介していきます。
ウォーキングのすすめ
運動の種類?/身体に無理なく手軽にできる運動としてウォーキング(速歩)をおすすめします。また筋肉をほぐし身体を柔軟にするストレッチングもあわせて行いましょう。
どのくらいすればいいの?/運動をどのくらいの量すればよいかは個人差がありますので必ず主治医の先生と相談しましょう。ウォーキングの場合『1日に◯◯◯歩 歩きましょう』というようにわかりやすい目標が立てられます。
いつごろすればよいか?食後1時間から1時間半くらいの時間帯が理想的です。しかしながら、ライフスタイルの中で必ずしもこの時間帯に運動ができるとは限りません。この場合を想定して注意事項などあらかじめ主治医の先生と相談しておきましょう。
運動中の注意事項
@できれば安全に運動できる場所(公園など)で行いましょう。<
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A暑さや寒さのきびしい時には暑さ、寒さ対策が必要です。
B運動の前には水分補強を充分にしましょう。運動の前にコップ1杯の水を飲み、運 動中は30分に1回程度ひとくちでも水を 飲むようにすると良いでしょう。
Cブドウ糖・糖尿病手帳を携帯しましょう。
上手なウォーキングの仕方
−正しいウォーキングのフォーム−
基本的な足の位置
ほぼ直線にさっさと歩こう
上手な靴の選び方
・つま先にゆとりがある。
・かかとにクッションがある。
・通気性がある。
・ 足によくフィットする。
ウォーキングのすすめ
運動の前後には準備運動と整理運動をしましょう。
ここではストレッチングをご紹介します。
準備運動の効果
運動を行う為に必要な筋肉の血行を良くし運動中のケガを予防します。また身体が軽くなり動かしやすくなります。
整理運動の効果
運動後の筋肉の疲れを取り除きます。疲労を慢性的にためてしまうと腰痛や膝痛の原因となります。
ストレッチングの効果
筋肉を柔らかくし関節の動きを滑らかにします。定期的に行うことで身体の柔軟性が増し筋肉疲労による障害(肩こり・腰痛・膝痛など)を解消します。
ストレッチングの注意事項
@動きに反動や勢いをつけずに行いま
しょう。
Aひとつの動作を20?60秒行いま
しょう。
B呼吸を止めずリラックスして行いましょう。
運動を継続する工夫
運動は継続してこそ効果のあるものです。
飽きずに3日坊主に終わらせない為のコツをご紹介します。
目標を設定しましょう
自分なりの目標をたてましょう。短期間と長期間それぞれの目標を設定するとよいでしょう。他の人とは比較せずあくまで自分のペースで運動しましょう。
(例えば) 1日 ◯◯◯歩
歩く体重を2kg減らす
血糖値を下げるなど
効果を判定しましょう
運動による身体の変化を判定しましょう。眼見える変化だけではなく『身体が軽くなった』『疲れづらくなった』『階段の昇り降りが楽になった』など自分自身の身体の変化に敏感になりましょう。
(他には) 体重の変化
体脂肪の変化
歩く距離が増えた など
身体に疲れをためないようにしましょう
疲れをためたままにしてしまうとケガの原因になります。ストレッチングやマッサージなどで身体を常にケアしましょう
ストレッチングプログラム
ストレッチングは筋肉を柔らかくする効果があり、疲労の回復、心身のリフレッシュにも役立ちます。
長時間同じ姿勢での作業などは、身体に大きなストレスをかけています。
5分?10分程度の休憩時間を設け、ストレッチングの実施をおすすめします。また、次の事に注意して行いましょう。
@呼吸を止めないようにしましょう。
Aひとつの動作を20?60秒行いましょう。
B反動をつけずに行いましょう。
【首のストレッチ】
顔は正面を向け、頭を左右にたおします。
【背中】
手を組み、腕を伸ばしていきます。
【肩】
左手で右肘を頭に引き寄せます。
同様に反対側も行いましょう。
【胸】
椅子の背もたれをつかみ胸をひろげるようにします。
【腕】
右腕をカラダの正面で胸に引きつけます。
同様に反対側も行いましょう。
【腰】
椅子に座り、カラダを前にたおします。
次に上体を左右にひねりましょう。
【ももの裏側】
椅子に座り、膝をかかえこみ腿をカラダに引きつけます。
同様に左右行いましょう。
【おしり】
デスクに手をかけて上体を前にたおします。
【ふくらはぎ】
脚を前後に開き、ふくらはぎ、アキレス腱を伸ばします。
同様に左右行いましょう。